4-7 アキトを求めて東帝大学へ
エツコはケンシロウにこれからどうするべきか、その答えはケンシロウの中にあると言った。
他人に甘えて答えを求めるべき問題ではないということなのだろう。
今までも、ケンシロウはずっと一人で人生を漕いで来たのだ。
このくらい、なんとかしてやるよ。
ケンシロウの心に火がついた。
ケンシロウは記憶の糸をたぐった。
アキトと交わした会話の中で、どこかにヒントが隠されているはずだ。
そう思った時、ケンシロウははっとした。
アキトが初めてケンシロウの家を訪ねて来た時、やつは
学部までは訊いていない。
だが、大学まで行けば、何か情報を得られるかもしれない。それに、研究室に向かうアキトと鉢合わせ出来るかもしれない。
大学には学部がいくつも分かれており、それぞれの学部に何千人も在籍していることは知っている。
キャンパスもケンシロウの通っていた中学校や高校の比ではない程広いだろう。
その中からたった一人の個人を探し出すことが相当に難しいことは予想出来る。
だが、それでもよかった。
ダメで元々だ。何もせずに家でただ彼が来るのを待ち続けるよりいい。
ケンシロウは翌日、東帝大学に向けて家を出た。電車を乗り継ぎ、最寄り駅で電車を降りる。
駅の改札を出ると、大勢の同年代らしい若者たちが楽し気にお喋りを楽しみながらある方向へ向かって歩いていく様子が目に飛び込んで来た。
きっと彼らは全員東帝大学の学生なのだろう。
国内で最高学府とされるこの大学に通う学生は、まずαたちで占められているといっても過言ではない。
楽し気に大学生活を送る彼らに、社会の最底辺で身体を売りながら生活を営んでいる同年代のΩたちのことなど、興味すらないに違いない。
そう思うと、何やら胸の奥がチクチク痛む。
こんな場所にアキトは通っているのだ。何から何まで自分とは住んでいる環境が違う。アキトが何やら遠い存在に思えて来て、少し胸の中が痛くなる。
でも、こんな所で気持ちで負けていてはだめだ。
あいつとオレは運命の番だ。あいつがどんなに遠い存在に思えたとしても、もうオレとあいつを分かつことは出来ないんだ。
ケンシロウはもう一度自分に気合いを入れ、学生たちに混ざって東帝大学のキャンパスに向かって歩いて行った。
だが、いざ大学の敷地内に足を踏み入れたケンシロウは、あまりの広さに圧倒された。
何棟もの大きな建物が立ち並んでいる。一つの建物だけでも通っていた高校の校舎くらいの大きさがある。
しかも案内図を見れば、通路で繋がった何棟もの建物が合わせて一つの学部なのだという。
そんな学部がいくつもこの敷地内に密集しているのだ。
アキトの通う学部さえわからないのに、一体何処から探していけばいいのだろう。
ケンシロウが途方に暮れていた時のことだ。
「何かお探しかな?」
いきなりケンシロウにそう声を掛けて来た者がいた。
「はい。ちょっと人を探していて」
「人探し? ここの大学の学生かな?」
大学のスタッフだろうか。このままでは
ケンシロウは少し安堵した。
「はい。大学院生のニカイドウ・アキトって名前……」
そう言いながら振り返った時、ケンシロウはギョッとした。
「あれ? 君がどうしてこんな所にいるんだい?」
二丁目でアキトと番が成立したあの夜、バー
そういえば、この男、東帝大学の教授だと言っていたっけ。
嫌なやつと遭遇してしまったな。
ケンシロウはそう思ったが、失礼にならない程度に小さくその男に会釈をした。
すると、彼はまじまじとケンシロウを頭のてっぺんからつま先まで眺めて来たのだった。
その男の目は、売り専ボーイの客がケンシロウを値踏みする時のそれだった。
普段は性的欲求など皆無であるかのようなエリート面している人間が見せる、欲望丸出しの眼差し。
そのような視線など、ケンシロウは仕事柄慣れているはずなのに、今日はやけに鳥肌が立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます