4-6 必然だった出会い
エツコの話を固唾を飲んで訊いていたケンシロウの頭を、エツコは優しく撫でた。
「ごめんなさいね。こんな話、訊いていてしんどかったでしょう。でも、運命の番の呪縛っていうのはね、それだけ強い引力を二人の間に及ぼすものなの。
あんたがGentlemanで出会ったっていう人も、出会うべくして出会った人のはずよ。ただの偶然で出会ったように見えるかもしれないけれど、でも、実は必然なんだってわたし、思うの。あんたがその人に特別な感情を抱くのも普通のことよ。
でも、運命の番だからといって必ずハッピーエンドを迎えられる訳じゃない。
わたしは今でも後悔しているわ。いくら親の決めた縁談とはいえ、わたしはあの人を手放しちゃいけなかった。捨て身の覚悟で、あの人を取り戻しに行くべきだった。人生に絶望して薬に溺れている場合じゃなかったのよ。駆け落ちだって何だってして、あの人を自分の元に留めておかなければならなかった。
でも、わたしは弱かったわ。どんなにα社会が下らないと突っ張って生きていても、やっぱり世間の目が怖かった。ここぞという時に尻込みしてしまったのね。
ケンちゃんとあの時のわたしは驚く程似ているわ。こうして、あんたにお節介を焼いてしまうのも、そんなあんたを放って置けないんでしょうね。だからね、一つ忠告をしておくわ。運命の番が成立した以上、あんたも覚悟を決めなければならない。一生その相手と添い遂げるんだというね」
アキトとケンシロウはまさに運命の糸で結ばれた関係。身体的なものだけでなく、魂のレベルで引き合う関係。
出会いは偶然のクルージングスポットでのものかもしれないが、実は必然であったのだ。
俄かには信じがたい話だが、納得は出来る。
アキトに対して少しずつ芽生え始めた愛情のようなものも、アキトに自分の抱える闇の部分を隠したいと思う気持ちも、アキトといきなり会えなくなって急に不安に陥ったのも、全てはケンシロウがアキトに惹かれているから。
でも、そんな二人を絶対に分かち難い運命の番の呪縛も、絶対ではない。
不可抗力によって、エツコとその番の相手が辿ったような悲劇的な結末を迎えることもある。
運命の番の絆はただ待っているだけではいつなくしてしまってもおかしくないもの。自分で求め続け、守り続けていくもの。
だが、そのあまりにも大きすぎるスケールに、弱冠二十歳のケンシロウは圧倒されそうになった。
そんなもの、ケンシロウに何とか出来るものなのだろうか。
「お、オレは……」
ケンシロウはカラカラに乾いた喉から絞り出すように掠れた声でエツコに助けを求めた。
「確かに、あんたは相手の連絡先を知らないかもしれない。でも、それだけで諦めていい相手ではないでしょう? あんたに出来ることを全部やりなさい。何が出来るかはあんた自身の中に答えがあるはずよ」
エツコはそう言って優しく励ますようにケンシロウの背中にそっと手を置いた。
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