4-4 「運命の番」とは?

 少し気分が落ち着くと、ケンシロウはエツコにアキトとの一件を打ち明けた。

一度誰かに話し出すと、一人抱えていた想いが一気に溢れ出す。

「オレはどうかしちゃってるんだ。αなんて、番として利用してやればいいだけのものだと思っていた。オレがαのことごときで苦しまなきゃいけないなんて考えてもいなかった。それなのに、どうしてオレは運命の番のあいつのことでこんなに苦しいんだろう。あいつに嫌われたくない。あいつと離れたくない。どうしてこんなに強くオレは願ってしまうんだろう」


 エツコは静かにケンシロウの話を訊いていたが、肩を震わせて想いを吐露する彼の背中を優しく撫でた。

「運命の番っていうのはね、そういうものなのよ」

「そういうものって?」

「運命の番って何で運命って言うのか、ほとんどの人はよく理解していないわ。遺伝子レベルで身体の相性がいいって程度の認識しかないわよね」

「それだけじゃないっていうの?」


 エツコは遠くを見るように窓の外に視線を向けた。

「ええ、そうよ。ただの身体の相性だけで、ここまで互いを強く引き合う関係にはならない。身体だけじゃなく、魂のレベルでαとΩの二人の結びつきがピッタリ合う相手でなくちゃ、運命にはなりえない。ただの番とは次元の違うのよ」


「エツコママ、何かあったの?」

 何か深い事情のありそうなエツコにケンシロウは尋ねた。

 第二の母としてエツコを慕っている割に、ケンシロウはエツコの過去のことを何も知らないことに気が付いたのだった。


「わたしにもね、昔、心から愛した運命の番がいたのよ」

「え?」

 エツコに運命の番となる相手がいたとは初耳だ。

 新宿二丁目でバーのママをしているということは、その運命の番とは、番を解消されてしまったということなのだろうか?

 運命の番を解消されるってどんなものなんだろう。

 エツコには悪いが、ケンシロウの好奇心がくすぐられる。

「その人とはどうなったの?」

 ケンシロウは身を乗り出してエツコに尋ねた。


「死んだわ」

 返って来た答えの重みに、ケンシロウは一転、興味本位でエツコの過去を探ろうとしたことを後悔した。

「ごめん、ママ……」


 シュンとなるケンシロウを見て、エツコは優しく微笑んだ。

「別にあんたがそんな顔をすることないわよ。あんたが運命の番と出会ったと訊いて、この話はしておかなくてはいけないと思っていたしね。少し重い話になるけれど、訊いてくれるかしら?」

 ケンシロウは神妙な面持ちで頷いた。


 エツコはケンシロウに頷き返して、自分の過去を話し始めた。

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