2-3 新宿二丁目で
ケンシロウは高校を中退し、家を出た。
彼が向かったのは、新宿二丁目だった。
ここで、番となるαを必ず手にしてやる。これまで自分を見下し、蔑んだ人間や社会全てを見返してやる。
ケンシロウはそう固く心に決めていた。
ケンシロウはα男を相手に身体を売る売り専ボーイという仕事に身をやつし、金を稼ぎながら番になるべきαを探した。
彼の
高校を卒業しておらずとも、一人で自活していくには十分すぎるほどの収入が入った。
しかし、こんなものは水物だ。何もしなければ、激しい発情期に身体は衰え、早死にするか強力な薬の副作用で急速に老い衰えてしまう。
そんな現実をケンシロウは理解していた。
だが、そんな未来など絶対に自分の力で断ち切ってやる。
ただただがむしゃらに前だけを向き、α探しに精を出す日々を送った。
ケンシロウは売り専ボーイとしての仕事の他に、
使用を法律で禁じられている発情促進剤をわざと服用し、αたちを焚き付けた。
身体に大きな負担がかかるであろうことや、警察に見つかれば刑務所いきになる危険性など承知の上だった。
ケンシロウには時間がなかったのだ。
何もしなければ、三十歳を迎える頃には、番の成立を逃したΩたちは死ぬか薬漬けになるかの二択しか残されてはいない。
それまで後十年程しか時間はない。
十年などボウッとしていればあっという間に過ぎ去ってしまう。
しかし、番となる相手はどんなαでもいい訳ではなかった。
もし番が成立しても、α妻がいる者も多い。そんなαは子どもが出来ればすぐに番を解消してしまう。
未婚のαでもΩを性処理にだけ利用し、後は打ち捨ててしまう者など五万といる。
二丁目に集まるαは特にそのような遊び人が多いのだ。
その先に待ち受けるのは、更に過酷な未来だ。
番成立を夢見て二丁目に集まるΩは多いが、その多くが悲劇的な結末を迎える姿をケンシロウはその目で何人も見て来たのだった。
だからケンシロウは性行為に及ぶ前に、相手を慎重に値踏みした。
ちょっとした仕草、言動や服装から、そのαが既婚者であるかどうかを見極める。まともにΩである自分を人生のパートナーとして迎える気があるのかどうかも。
しかし、どんなに数多くのαと出会っても、彼らが求めているのは一時の性的快楽でしかなかった。
ケンシロウはそんな相手には、決して首輪を外そうとはしなかった。
そんな場合は身体を差し出すだけ差し出して、金だけ貰い、後腐れなく別れる。自分も発情期の異常な性欲を解消出来るし、悪いことばかりじゃない。
だが、番となるべきαを探し出すという
年月は飛ぶように過ぎ去り、気付けばケンシロウは成人し、二十歳になっていた。
この街に来てから既に三年近くが経過した。あっという間の三年間。
このまま惰性で新宿二丁目でのα探しを続けていても、成果は上がるのだろうか。
ケンシロウの胸に不安と焦りが広がっていった。
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