2.Side ケンシロウ ーΩはαを番とし、人生に逆襲をかけるー
2-1 勝利の美酒
ケンシロウは新宿二丁目のバーMonster Boyで勝利の美酒に酔っていた。
何処の男が相手だかわからないが、αとの番が成立したことで、とにもかくにも自分らしく生きることの出来る人生を手に入れたのだ。
これで、Ωであるというだけで自分を見下して来たこの世の中を見返してやることが出来る。
「そんな見ず知らずの男と番になるなんて。本当に大丈夫なの?」
Monster Boyを切り盛りするママのエツコがケンシロウを心配して尋ねた。
ケンシロウはエツコのそんな心配をふふっと笑ってみせた。
「大丈夫だよ。オレね、あいつと触れ合った瞬間、わかっちゃったんだ。あいつはオレにとって運命の番だってね」
「まあ、運命の番ですって?」
エツコが
運命の番。番の中でも出会えれば奇跡といわれる滅多に出会うことのできないαとΩの関係のことだ。
身体の相性が遺伝子レベルでピッタリであり、その快感を覚えたら最後、簡単にΩとの番を解消するαでさえ、その味を一生忘れることが出来ないという。
必然的にそのαは他の人間との性交渉では満足出来なくなり、番となったΩしか受け付けなくなってしまうのだ。
そうなれば最後、α同士で結婚したとしても夫婦の間に子どもは決して望めなくなってしまう。
番となったαとΩを強力に引き付け合って離さない不思議な力が作用する。
その力を人は「運命の番の呪縛」と呼ぶのだ。
「運命の番の呪縛は恐ろしいよ。逃げようと思って逃げられるものじゃない」
ケンシロウは得意気に語った。
その実、運命の番の呪縛というものが自分に作用するものだとは考えてはいなかった。
何故ならケンシロウからαとの番を放棄することなど有り得ないからだ。
もし運命の番の呪縛に囚われるとするならば、ケンシロウの元から逃げるように夜の新宿の街に姿を消したあのαの男の方だろう。
一方でエツコは余裕たっぷりのケンシロウに対する心配が絶えない。
「運命の番にクルージングスポットで出会っちゃったっていうの? あんたって子はまったく……。でも、相手の名前も住所も何も素性を知らないんでしょ? いくら相手が運命の番でも、どうやってもう一度彼を探し出すつもり?」
「へへん」
ケンシロウは得意気に笑った。
「オレから会いに行くんじゃない。向こうから会いに来るんだ」
「向こうから?」
「うん。その辺はちゃんと俺も考えているよ。あいつが慌てて
ケンシロウの計算高さに驚いたのか、エツコが再び
「ええ!? そんなものを常に持ち歩いていたっていうの?」
「当たり前だよ。だって、いつ番になるαと出会えるかなんてわからないからね。もし番になっても、今夜みたいに突発的に相手が逃げてしまうかもしれない。そんな時のためにも、ちゃんと準備は整えておかなくちゃ」
目を白黒させるエツコにケンシロウはその若い年齢に似合わぬ余裕な笑みを浮かべた。
「これであいつは確実にオレの元に戻って来る。運命の番であるオレを忘れられるほど意思の強そうな男じゃなかったしね」
「まぁ、あんたって子は食えないわね。こんな可愛い顔をしているのに、恐ろしい本性を隠し持っているんだから」
「恐ろしいなんて失礼だなぁ。オレはね、ただ自分らしく生きることの出来る場所を手に入れたかっただけ。もう二度と他人から蔑まれて社会の片隅で丸まって生きていくなんてごめんだからね」
「そのために、あんたったらどんな危険なことでもやって来たからね」
「ああ。だって、Ωとして生まれた以上、人間らしく生きるにはそれ相応のリスクが伴うのは生まれ持った定めだからさ。そこでうじうじ悩むくらいなら、やれることは全部やってやらなきゃ、後で後悔するじゃん?」
「でも、これで安心してあんたらしい人生を送れるようになったらいいわね。もう、これ以上危ないことをしたらだめよ」
「あはは。まだまだここで油断したらいけないよ。ゴールはまだ先。完全にあいつがオレのものになるまでは、この闘いは続くんだから」
ケンシロウはグラスに入った青く透明なカクテルを眺めながら、その甘く口いっぱいに広がる味に浸っていた。
エツコはそんなケンシロウを
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