第100話 カギ

「あれは……?」

「デーモンジェネラルのドロップアイテムでしょうか? 金色に光っていますね」

「金塊とか?!」


 目をキラキラさせて床に落ちていた金色のアイテムを取りに行くマルギット。しかし、アイテムを手にして戻ってくる姿は、肩を落としてガッカリと言わんばかりだった。


「思ったより小っちゃいんですけど……マルちゃんショック!」

「持ってきてくれてありがとう、マルギット」


 残念そうなマルギットから、僕は金色のドロップアイテムを受け取った。ズシリと重たいまるで櫛のような形状の金色に光る物体だ。僕はルイーゼたちに見せるように金の櫛を両手の上に載せてみせる。


「これは……?」

「何かしら……?」

「これはカギだよ」


 疑問の声を上げるラインハルトとルイーゼに僕は答える。


「この大広間の先に進むためのカギだね。あそこの大きな扉で使うんだ」


 僕の指示した部屋の奥には、大きな両開きの黒い扉が鎮座している。


「デーモンジェネラルを倒すと、必ずドロップするんだ。そして、これがドロップしたということは、デーモンジェネラルを完全に討伐できたって証だね」

「へー。これがあれば、今度からデーモンジェネラル戦は回避できるってこと?」


 ルイーゼが僕の手のひらから金のカギを取り上げて、しげしげと眺めている。


「あのデーモンジェネラルって、そこまで滅茶苦茶に強いってわけじゃないけど、倒しきるのが面倒なのよねー。悪魔のクセにヒール使うし」


 ルイーゼがげんなりした様子でため息を吐いた。ラインハルトとマルギットもルイーゼの言葉に同意なのか、首を縦に振る。


「でも、これがあれば、適当にデーモンジェネラルの相手をして、カギを使って向こうに行くことができるってことね。デーモンジェネラルは大き過ぎて扉を通れないから追ってこないだろうし」

「それがもし可能なら、相当に貴重なアイテムですね」

「高値で売れるってこと?!」


 ラインハルトの言葉に色めき立つマルギット。僕は申し訳ないものを感じながら、ルイーゼの言葉を訂正していく。


「その……。ルイーゼの考えは分かるけど、それは無理なんだ。このカギは、一度使用すると、消えちゃう消費アイテムなんだよ」

「えー!? 消えちゃうってマジ!? せっかく手に入れたのに……マジかー……あーしのウハウハ計画が……」


 マルギットが大袈裟なくらいしょんぼりしてしまう。ちょっとかわいそうだけど、こればかりは僕にもどうしようもない。


「それよりも、急いでこの部屋を出て進もう」

「あら? 私たちを急かすなんて、いつも慎重な貴方らしくないわね。何かあるの?」


 僕はイザベルに頷くと、急いで口を開く。


「ほら、デーモンジェネラルに挑む前に、ここが最後の安地だって言ったでしょ? ここから先には完全に安全な安地はもう無いって。ここも安地じゃないんだよ。時間が経てば、デーモンジェネラルたちが復活しちゃうんだ」

「うへー……。マジ?」


 うんざりしているのはマルギットだけではなかった。見渡せば、皆が嫌そうな顔を浮かべている。それだけデーモンジェネラルの討伐が、たいへんだったということだろう。


「マジだよ。まだしばらくは大丈夫だろうけど、リポップしちゃったら最悪だからね。必要以上に急かすわけじゃないけど、急いだ方がいいと思う」

「そうなのね。じゃあ、急ぎましょう」


 僕の言葉を聞いて、さっそくとばかりに動き出すルイーゼ。片手に金のカギを持って、部屋の奥に鎮座する大扉へと歩き出す。


 僕たちもルイーゼの背中を追って歩き出した。


「装備の不具合や、体調は大丈夫? デーモンジェネラルのリポップまで時間はあるから、なにかあるならここで済ませておいた方がいいよ」

「大丈夫よ」

「へーき、へーき!」

「特に問題はありません」


 ルイーゼ、マルギット、ラインハルトの前衛陣は大丈夫なようだ。その歩みもしっかりしているし、軽く見た限りでは、装備の破損や、疲労などは見えなかった。


「イザベルとリリーは? もしかしたら、最後のチャンスかもしれないから、遠慮しないで言ってね」

「大丈夫……だと思うわ」

「うん……」


 自分の体を見下ろして装備を確認する二人。イザベルとリリーの後衛組も大丈夫らしい。


「そう言うクルトはどうなの? 貴方はもう準備は整っているのかしら?」

「大丈夫だよ。ヘヴィークロスボウがいくつか巻き上がってないけど、移動中でもできるしね」


 僕はイザベルに頷いて返すと、さっそくヘヴィークロスボウ備え付けの弦の巻き上げ機を回し始める。固くてハンドルを回すのはたいへんだけど、このヘヴィークロスボウのおかげで、貧弱な僕でもルイーゼたちの戦闘に援護ができるんだ。文句なんて言っていられない。


「大きいわね……」


 ルイーゼが小さく零し、ポカンと口を開けて大扉を見上げていた。大扉は、まるで石化した人間の骨を集めてできているかのように悪趣味なレリーフが刻まれていた。


 そんな大扉の中央下部には、黒い光沢を放つ髑髏があり、その頭頂部には細長いスリットが開いていた。


「ここに入れるの?」

「うん。扉の向こうにモンスターが居るかもしれないから気を付けてね」

「了解」

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