第99話 デーモンジェネラル
ドゥンッ!!!
「ぐぅッ……! おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!」
三度だけ、自身を超加速できるマルギットの宝具、ブーステッド・シェル・ブリッド。その最後の羽が砕け、マルギットの体が爆発音のような音と共に超加速する。
マルギットの脚を覆う深紅の脚甲。ブーステッド・シェル・ブリッドからは、陽炎のように景色が歪んでみるほどの爆風が吹き荒れ、マルギットの体を前へと圧していく。
デーモンジェネラルの首に突き刺さったマルギットの体が、少しずつ、少しずつ前へと進んでいく。一度は離れかけたルイーゼとマルギットの距離が、また近づいていく。
ビチビチビチビチビチッ!
デーモンジェネラルの首は、尚もルイーゼとマルギットの剣を押し戻そうと、再生を続けている。しかし、マルギットの侵撃は、その再生速度を上回っていた。そして――――。
「はぁああああああああああああああああ!」
「うりゃぁああああああああああああああ!」
ルイーゼとマルギットの声が共鳴し、一つの声に合わさった次の瞬間。ルイーゼの体が右へ、そして、マルギットの体が左へと宙を駆け抜けた。ついに、デーモンジェネラルの首を断ち斬ったのだ。
デーモンジェネラルの頭は刎ね飛ばされ、首から確かに浮き上がっていた。
デーモンジェネラルの体から発せられていた淡い緑の光の粒子はパタリと止み、デーモンジェネラルの巨大なヘルムから覗いていた赤い瞳の輝きも失せている。
討伐できたのか……?
僕の胸に去来したのは、期待を上回る大きな不安だった。今まで、何度も討伐できたという確信を裏切ってきたデーモンジェネラルだ。今回もまた、僕の想像もつかない手段で復活する可能性を捨てきれない。
ブシュゥゥウウウウウウウウウウウウウッ!!!
しかし、僕の不安を打ち消すように、デーモンジェネラルの太い首から大量の白い煙が噴き出し、デーモンジェネラルの頭が、その背後へと落ちていった。
ボフンッ!!!
デーモンジェネラルのヘルムが床に叩きつけられる瞬間に白い煙となって消え、デーモンジェネラルの体も、まるで幻であったかのように白い煙へと変わる。
空気の融けるように消えた白い煙が晴れた跡には、荒れた赤い絨毯が広がるだけであった。
「倒……せた……?」
僕自身、本当にデーモンジェネラルを討伐できたのか、まだ半信半疑だった。実際に戦っていたルイーゼたちもそうなのだろう。ルイーゼも、ラインハルトも、マルギットも、剣を構えて未だに警戒態勢を解いていない。
「さすがに、討伐できたのではなくて?」
デーモンジェネラルが煙となって消えてから10ほど呼吸を要しただろうか。イザベルの言葉に、僕はやっとデーモンジェネラルを倒せた実感が湧いてきた気がした。
デーモンジェネラルは白い煙となって消えたのだ。今や、デーモンジェネラルの痕跡など、どこにもない。いや、一つだけあった。
「はぁ……」
僕はそれを見つけると、重いため息を吐く。強張っていた体が解れていくのを感じた。無意識にこんなに力が入っていたのかと驚くほどだ。
「討伐は完了だ!」
僕は、デーモンジェネラルの討伐完了を宣言した。それと同時に、ルイーゼたちが肩の力を抜いて、深く息を吐くのが見えた。
やはり、デーモンジェネラルが本当に討伐できたのか、ルイーゼたちにも不安に思う部分があるのだろう。
神を冒涜して治癒の奇跡まで行使してみせたデーモンジェネラルだ。目を離した隙に、白い煙が立ち込めて、デーモンジェネラルが無傷で復活するなんて被害妄想染みた考えまで浮かんでくる。
ルイーゼたちは剣を鞘に納めず、辺りを警戒したまま集まってくる。
「お疲れ様、ルイーゼ」
「うん。本当に倒せたのかしら……って! クルト! あなたボロボロじゃない!?」
「え?」
ルイーゼが僕を視界に納めるなり、驚きの声を上げた。
「いてて……」
今まで興奮によって痛みが紛れていたのだろう。ルイーゼに指摘されると、体が痛みを思い出したように全身に痛みが走る。特にひどいのは左目だ。
白濁し、まったく見えない左の視界。まるで、神経を直接ヤスリにかけられたように痛んだ。目玉の代わりにトゲトゲの石でも入れられているかのようだった。
「ヒール!」
ルイーゼが左の手のひらを僕に向け、ヒールを唱える。途端に僕の体の内側からじんわりと温かいものが染みわたっていく感覚を覚えた。痛みが温かさに優しく溶けていき、白濁した視界も色を取り戻していく。
「イザベルもリリーも! ヒール! ヒール!」
ルイーゼがイザベルとリリーの二人にもヒールを唱える。ルイーゼたちみたいに直接デーモンジェネラルと戦っていたわけではないけど、戦いの余波で傷付いていたのだ。
「ありがとう、ルイーゼ。助かったよ」
「楽になったわ。ありがとう」
「あり、がと……」
「いえいえ。それで? デーモンジェネラルは本当に倒せたのかしら?」
「うん」
僕はルイーゼの言葉に頷き、右手の人差し指で床のある一点を指してみせた。
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