第87話 扉前

「皆、準備はいい?」


 僕は振り返り、皆の恰好や顔色などを確認しながら尋ねる。


「大丈夫よ」

「そーそー、だいじょぶ、だいじょぶ」

「準備完了しています」

「私もよろしくてよ」

「だい、じょぶ…!」


 こちらに頷いて返す皆の言葉に安堵する。最後の完全安地ということで、長い休憩を取ったからだろう。皆に疲労の色は見えなかった。絶好調とはいかないまでも、体力や精神力の回復はできたようだ。朝食も食べたし、武器の手入れもした。やり残したことは無い。


 僕は、髑髏で装飾された気味の悪い大きな扉の前に立って口を開く。


「この扉の先は長い通路になっていて、行き止まりには、また大きな扉がある。通路での戦闘は無いという情報だけど、もしかしたら、モンスターが徘徊しているかもしれないから注意ね。この先はどこにモンスターが居るのか分からないから十分警戒してね」


 ここまでで質問はあるだろうか? 僕は皆を見渡すけど、特に無いようだ。まぁ、これまで何度も説明や注意をしてきたから、今更なのだろう。


「勇者の人選だけど、通路の移動時はルイーゼ、ラインハルト、リリーを勇者にしようと思う。隊列は二列縦隊。最前列にルイーゼとラインハルト、真ん中に僕とイザベル、最後尾にリリーとマルギットでいこう」


 極大の戦力である勇者を隊列の前後に配置して、近距離戦闘能力の低い僕やイザベルを挟んで守る陣形だ。おそらく、移動中は基本的にこの形になるだろう。


「通路の向こうは、いよいよ中ボス戦だ。出現モンスターは鎧を纏った悪魔が13体。数が多いから、最初の一撃は予定通りイザベルに任せるよ。敵をできる限りダメージを与えてほしい。この時、リリーからイザベルに勇者を移して、イザベルの魔法が終わったらリリーを勇者に戻すことになるから、覚えておいてね」

「分かったわ」

「はい…!」


 イザベルとリリーが頷いた後、イザベルが少し不満そうに口を開く。


「別にダメージを与えるのは構わないけど、倒してしまってもいいのでしょう?」

「もちろん。それがベストだよ」


 魔法の一撃で片付くなら、体力も温存できるし、言うことなしだ。


「ただ、中ボスとその取り巻きの12体の悪魔は、ガーゴイルとは桁違いに強いんだ。魔法の耐性も高い。イザベルの実力を疑うわけじゃないけど、最悪、レジストされてノーダメージなんてこともあるかもしれない」


 悪魔型のモンスターは、その魔法耐性の高さでも恐れられている。それに、自己再生能力を持っている者も多いし、悪魔が使う武器や爪にはさまざまな毒が塗られていることもある。魔法での遠距離戦では倒しきれない場合が多く、接近戦でもなかなか仕留めきれず、耐久戦の果てに毒に侵されて嬲り殺しにされる。本当に性格が悪い。まさに悪魔の所業と呼べるだろう。


「その方が、やりがいがあるというものだわ」


 イザベルが不敵で挑戦的な笑みを浮かべている。難しいと聞いて、ますますやる気になったようだ。


「期待してるよ。もし、イザベルの先制魔法攻撃を生き残ったモンスターが複数居た場合、僕たちは通路でこれを迎え撃とう。前衛はルイーゼとラインハルト、リリーが担当」

「りょーかい!」

「分かりました」

「んっ…!」


 ルイーゼ、ラインハルト、リリーが頷いたのを確認して、僕はマルギットへと視線を向ける。


「マルギットは遊撃で」

「りょっ! ても、ゆーげきって何すればいいの?」


 かわいらしく首をかしげるマルギット。マルギットってサバサバしている男友達のような感じがするけど、仕草とかは意外とかわいらしいな。そんなことを思いながら、僕はマルギットに答える。


「前線を突破しそうなモンスターが居たら、蹴り飛ばしてほしい。あとは隙を見て不意打ちかな。でも、あまり無理しなくてもいいよ。マルギットの好きなように動いていいから。判断はマルギットに任せる」

「あーい」


 マルギットの実力は、先程の戦闘で直接見させてもらった。勇者化していないのにレベル7のダンジョンのモンスターを肉弾戦で倒すなんて、思いもよらなかったな。もしかしたら、このパーティの一番の実力者はマルギットなのかもしれない。


「イザベルと僕は、後方から前線の味方の援護だね」

「分かったわ」


 コクンと軽く顎を引くように頷くイザベル。イザベルは精霊魔法、僕はクロスボウの射撃。どちらも遠距離攻撃が可能だ。悪魔は想像以上にタフだから、僕のヘヴィークロスボウや、勇者化していないイザベルの精霊魔法では、大したダメージを与えられないかもしれない。それほど援護にならないかもしれないけど、やらないよりもマシだろう。


「こんなところかな? 最後の機会だけど、質問とかある?」


 皆の顔を見渡すけど、質問がある人は居なさそうだ。そうだね。今まで何度も、耳に蓋ができるほど説明してきた内容だ。今更になって質問がある人なんて居ないだろう。


 僕は皆に頷いて返すと、決意を込めて宣言する。


「じゃあ、行こうか。僕たちに女神の微笑みがあらんことを」



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