BWV847 石化する蝶
石化した
とはいえ、石化した蝶たちの無時間的浮遊は、利便性を措くとするなら、この世に数多ある自然界の驚異のひとつとして、それなりに愛でるべき景物ともいえた。春のピクニックに添えられた点景。いまやすっかり子どもの絵日記の常連だ。無害化されたともいえる。ひと頃は、世界の終末を告げる凶兆として忌み嫌われ、大がかりな暴動まで引き起こしたこともあるというのに。人間はなんにでも慣れてしまう。鳥は飛ぶもの、魚は泳ぐもの、蝶は空中で石化するもの。議論の余地はない。原因の究明は、一部の学者たちに任せておけばいい。われわれには生活がある。われわれには時間が流れている。時を奪われた蝶たちに、そういつまでもかかずらわってはいられない。せいぜい休日の気まぐれな道楽として、
夕闇が濃くなる頃、点灯夫たちはそれぞれの持ち場に赴き、涼しげな顔で、
とはいえ、暗闇に燃える蝶たちの光は、地べたに生まれた星空のようでもあり、焚き火と同程度の郷愁を誘う。自分が蝶になった夢をみたのか、蝶がみる夢がいまの自分なのか、とは有名な故事だが、石化した蝶が夢をみるなら、その夢のなかで、われわれはことごとく石化して終末を迎えているのかもしれない。しかし時のない夢とはいかなるものか? 時のない音楽と同じくらいに、それは想像の
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