打ち上げ花火

みゅう

先輩と僕

 それはある夏の、文芸部の部室での出来事だった。


「いけくん、今付き合ってる人いないのよね。じゃあ、私と付き合わない?」


 いつもの冗談? だよな。


「好きよ」

「え?」


 笑みを浮かべて言われたその言葉に、僕は激しく動揺する。


「ばかね、うそに決まってるじゃない」

「ひどっ。さすがの僕も今のには傷つきました」


 僕は不貞腐ふてくされている事を示すように、わざとらしくほおふくらませてみせる。


「あなたの事なんて別に好きじゃないもの」

「そんなにはっきり言わなくても」


 例えまぎれもない事実だとしても実際に言葉にされると、やはりショックは受ける。


「クラスの子にあなたとの事聞かれたけど、付き合ってないって否定しておいたわ」

「確かに、そうですけど……」


 先輩の意図が分からず、僕は困惑の色を強める。


「頭が悪くてどんくさくて、顔もそんなにいいわけじゃない」

「ケンカ売ってます?」


 なんなんだ、急に。


「あなたに長所はあるのかしら」

「はぁ……」


 そんな事を言われて、僕は一体なんて答えればいいんだろう?


「知ってる? ナマケモノって意外と泳ぐのが上手って」

「はい?」


 突然の話題転換についていけず、僕は思わず動きを止める。


「昨日テレビで見たのだけど」

「そうですか」


 僕の反応が気に入らなかったのか、先輩がムッとした顔をする。


「退屈は猫をも殺すらしいわ」

「ですね」


 それは僕にとっては聞き慣れた、いつもの文言もんごんだった。


「それにしても、ひまね」


 今日も文芸部の部室は平常運転だった。





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打ち上げ花火 みゅう @nashiro

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