第二十七話 アリバイ作り/懐疑

「え?何……が…………。」


 そこでブラッドクイーンの首が刎ねられ首から大量に血が噴き出る。

 今まで浮遊していたブラッドクイーンは地面に落下し力なく倒れる。


 辺りは静寂に包まれた。


 そしていつの間にか死んだブラッドクイーンの後ろには見下すように立っているコキジの姿があった。

 傷や汗、服の乱れなど一切なく返り血すらもない。

 

「無事だったか?」


 コキジが近づきながら俺たちに話しかける。


「すまない。俺がもう少し早く着いていればもっと楽な戦いができたは……。」


「あなたは何者なの……?」

「全部あんただったのか……?」


 俺とサラスの声が重なる。


「まずライアンの問いから答えると、全部とは何を指しているのかわからないが俺は多頭の狼、骨の武士、飛縁魔……ここだと吸血鬼か?をやっただけだ。

 そして貴女の問いについてだが俺はただの忍。俺からすれば貴女こそ果たして人間か疑わしいほどの人物だがな。」

「そして、何をそこまで怖がっているのかがわからない。俺は仲間のことを襲うことはない。」


「あ、あぁ。そうか。すまない。助けてもらった礼がまだだったな。ありがとう。ほんとに助かった。」


「まぁ、そうね……。」


「とりあえず、戻るか。」


 俺たちはひとまず宿舎に帰ることにした。

 城壁に扉のようなものはなかったがサラスが水で押し上げてくれた。

 そのせいでびしょ濡れになってしまったけど。


「さっきのことみんなに言う?」


「俺は隠してもメリットがないから言おうと思ってた。」


「俺は……。」


「実は私もそんななのよね。」


「なんかメリットがあるのか?」


「メリットというか……ねぇ。」


「正直にいうと、俺は外部に漏らしてはいけない口伝を使った。ここで隠し切るのは厳しいと思ったから今言ってるが。貴女もそういう理由だろう?」


「口伝ほど厳しいものじゃないけどあの技を見せていいことが人生においてないのよね。ここは違うのかもしれないけどそれでも怖くて。」


「ふーんそういうことか。なら協力する。コキジは知らないと思うがあの能力は多分限りがあるんだ。あの技のことを言うことでそれ前提に戦われると俺も困る。」


「じゃあ決定ね。言い訳どうする?」


 

 それから三人で言い訳、アリバイを考えた。

 

 街を散歩していたら猪の魔物が現れ、それを三人で倒している過程でサラスの魔法に巻き込まれて水浸しになり、死体は本屋の店主に引き取ってもらった。

 と言うことにした。

 本屋の店主にも一応話をつけておいた。

 店主は「いいけどその代わりいつか魔族の死体ちょうだいね。」と言っていた。


 

 宿舎に帰る頃にはすでに朝日が登り始めていて辺りは明るくなっている。

 宿舎の中に起きてる人はいないようだ。俺たちはそれぞれ静かに部屋に戻り解散する。


 部屋に入ると二人は寝ていた。

 カルムは行儀良く、オッドはいびきをかいている。


 俺は起こさないように静かに着替える。

 静かに着替えていたつもりだったが、どうやらカルムを起こしてしまったのか起き上がる。


「ん、ライアン?もう起きてたんだ。おはよう。」


 カルムは寝起きだからかなぜ着替えているかに突っ込んでこない。


「あぁ、おはよう。すまない、起こしちゃったか?」


「うぅん。僕っていつもこのくらいに起きるんだよね。特訓しないといけなくて。」


「そうなのか。頑張れよ。」


 そう言うとカルムは剣を持ち部屋を出ていった。

 

「さて、これから何するかな。」


 朝ご飯の時間まで一時間近くある。寝るにも寝切れない時間。

 俺は特になんも考えずに本棚に近づく。


 今のうちに二人がどんな本を買ったのか見ようと思ったがオッドに見られるとまずい。そう思い俺は自分の本を手に取った。

 オッドは何を考えているのかわからない。

 倉庫での一件も本屋での一件もあった。オッドの過去についてはわからないが、ただ一つ言えるのは倫理観がおかしいと言うことだ。ルーファスを筆頭におかしそうな人はここに何人もいるがあの年齢であそこまで歪んでいるのははっきり言って異常だ。

 どこに地雷があるのかわからない。オッドなら平気で人を殺してしまいそうだ。

 他の人に伝えるべきか……いや、そんな空気にして何か地雷を踏んでしまったら恐ろしい。伝えるにしてもそれを感じているであろうカルムぐらいか。

 

 俺が手に取った本は『ウェザリアとデストロイ』。

 デストロイとは正式名称『自立型戦闘機デストロイ』という機械だ。

 元々ウェザリアは技術力が高く、戦車など色々なものが開発されてきた。それは初代国王アダムス・レイドが創造魔法の使い手だったこともあるのかたくさんの創造魔法の使い手が居場所を求めてやってきたことが技術力が高い要因として挙げられる。

 

 その結果、自立式の機械が作られた。最初は俺たち王族の城の家事を行う『自立型家庭機オーラ』というのが作られた。『オーラ』というのはその時のメイド長の娘の名前らしい。

 それからさまざまな種類が作られ最終的にこの『デストロイ』が作られたのだ。

 

 しかし、デストロイは力が強すぎるというのと不安定な機械に他人の命を奪う権利があるのが危ない。という二つの意見が出たため製造が中止。残っていた機体もその後のいくつかの襲撃や劣化によって処分されきったはずなのだ。

 

 だから、シニスターがそれだと分かった瞬間はかなり驚いた。

 いや、俺が驚いたのはそこじゃないな。

 

 それはデストロイとはかけ離れた見た目、性能をしていることだ。

 デストロイの基本装備は大剣と魔法銃。そして言葉を話すのは戦闘において必要最低限のもの。見た目はもっと機械的だったはずだ。顔もあんなに人間の顔はしてなかった。

 誰かが改造を……いや、それは悪用禁止のため自衛システムが働く。魔法での支配も体の特殊な金属と全身に刻まれた防御魔法によって世界でも屈指の耐性を持っているはず。

 じゃあ、なんだ?

 そう考えながらこの本を読んでいたが中身はデストロイ製造の歴史とスペック。有効的な活用方法ぐらいだ。

 一文も改造について書かれていない。 

 後でシニスターに聞いてみるか。

 言論統制システムが働かなければいいが、改造主がもしいてそいつがこの改造について禁句に設定しているのなら、俺の身が危ないが……可能だったらリファイを呼んで壁を作ってもらおう。

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世界の終わりに向けて愚か者達は。 桜坂神楽 @KaguraSakurazaka0304

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