第二十六話 不意の一撃
「はーい殺します。あんたは眷属にすらしたくないわ。ブス。」
そういった途端、さまざまな方向から雄叫びが聞こえる。右側には真っ赤に燃え盛る炎の塊。左側には全身を岩石に包んだ竜。上空にはククルカン。奥には骨の馬が前足を上げて屈とうをし、その上にいるすでに骨の人物は剣を振るっている。その両サイドにいる二頭の多頭の狼は空に向かって吠えた。一番近い距離にいる大きなスライムは元気よくぴょんぴょん跳ねている。ククルカンほど高くない高度を飛行している二頭の龍は興奮し、激しく飛び回っている。木の魔物は自身の腕とも言える枝をたたき威嚇している。
彼らは彼女の声に応じて興奮状態にさせられているように見えた。
「あら、私まずいことしちゃった?」
「そうだな。」
「さ……やろっか!」
それには一度だけ頷き槍を構える。
「展開:グングニル。生成:トライデント。」
出てきたのはフォークのように三叉に分かれた槍。
そして先に動き出したのはククルカン。先ほど同様風を起こしてくるが今回は虹色に輝いている。視認性が上がった代わりに速さ、細かさが増している。
「ウォーターバリア!」
サラスが俺含めて風が向かってくる方向に大きな水のバリアを張ってくれた。
「
トライデントを一振りすると塩水の竜巻が起きそれははるか高く、天まで届いた。
ククルカンはそれに虹色の風で対抗していたが水神の怒りはそれくらいじゃ止められない。
避けきれずに竜巻に巻き込まれ血が飛び散る。中の様子はわからないがもう無視でいいか。
ククルカンに目を奪われ地上を見ていなかった。そのせいで目前まで大きなスライムがきていることに気づけなかった。
サラスが気づいて水流で押し流そうとしている。
スライムは魔法に対して非常に高い耐性を持っている。その水流さえもろくに効いていない。
俺はトライデントを地面に刺した。
すると俺とサラス以外の地面が大きく揺れ始め大地が割れる。
地割れに巻き込まれたスライムは地面の中に吸い込まれていき、姿は跡形もなく消えた。
大きなスライムを消し、残りは骨の騎士と岩石の龍、炎の精霊、小柄な龍が二頭。多頭の狼が二匹、木の魔物が一体。かなり減ってきた。
「このまま行くぞ。」
「えぇ。」
依然地震は続いている。さまざまな箇所が地割れして移動するのが困難な状態になっている。
が、多頭の狼は容赦なかった。器用に隙間を飛び越え近づいてくる。
サラスが水球をとばして迎撃する。しかし、その水球は不思議な牙で噛まれ無力化される。
「ライアン!こいつら魔法が効かない!」
そう言ったサラスは手の平の水球を変形させ一本のロングソードにしていた。
俺は地面からトライデントを抜き、迎撃する。
三つの頭を持つ狼、『ケルベロス』が俺の方にくる。それは三つの頭から冷気の籠もったブレスを吐いた。それは辺り一帯の地面を凍らせ凍土と化した。それでもケルベロスはその足の特殊な毛皮によって滑ることなく自由に凍土を走り回る。
俺は俺の周りの地面が凍っていて下手に動くと転んでしまうため動けずに待つことになる。
ケルベロスは俺の周りを高速で走っていて、いつくるかわからない。
他の生物にもサラスにも気を配らないといけなくケルベロスを視線で追う過程でチラッと目に入る情報だけで整理しているがそろそろ目と脳の処理限界がくる。
投擲で仕留めるか……?
いや、トライデントを投げるのは勿体無い。グングニルはもってのほかだ。
トライデントの能力で倒そうにも効かない可能性もある。
その隙にやられてしまう可能性だってある。
……なんだ!?空から風を切る音が……。
ケルベロスと危険度を天秤にかけ、上空を見る。
一瞬みるとそこには奥の岩石の龍が吐いたであろう大きな岩が飛んできている。それは正確に俺の場所に飛んできている。おそらく外れない。当たったら死ぬ。
そしてチラッと岩石を見た後、すぐにケルベロスの方をみるとちょうど俺の方に襲い掛かろうとしていた。――対応しきれないほどの速さで。
仕方ない。俺は本気で集中し、て……。
「グァ!!」
俺に襲い掛かってきていたケルベロスは俺の目の前で爪を伸ばし、息絶えた。
サラスの方はちょうど水の剣で二頭の狼、『オルトロス』を仕留めていた。
ケルベロスを仕留めたのはなんだ?
死に方やその瞬間の音は魔法やルーファスの銃とは違う。
体に傷は見られずあるのは胸元の刺し傷のみ。
剣でやられたにしても当事者がいない。
「ライアン!岩が……!!」
気づけば岩がそこまできていた。
地面にはケルベロスの吐いたブレスの影響が消えていて自由に動けるようになっている。
そのおかげで楽々岩を避けれた。
残りで脅威なのは……あの騎士。
戦いが始まってから一度も動いていない。俺から来いということだろうか。
ただ、その前に雑魚を処理しておきたい。
空を飛んでいるあの龍は流石に届かない。ククルカンを殺ったときのようにやれば届きはするが避けられて終わりだろう。
「サラス!あの空飛んでる龍はやれるか?」
「んーやってみる。アクアスラッシュ!!」
サラスは水の刃を形成し空に飛ばす。
それはかなり速く飛んでいくが距離が離れすぎている。
「あーやっぱりダメね。しょうがないわ。――スゥ。」
そう言ったサラスは深呼吸を始めた。途端、辺りの魔力が濃くなる。サラスは『魔力充満』を始めたのだろう。それであの空の龍を殺せるのだろうか。
魔力充満は自分の体の魔力を外に出し、その空間を操作して強大な魔法を使うためのもの。
にしてもあの空まで届くのだろうか。
それに反応したのか危険を感じたのか周囲の骨の騎士以外がサラスに攻撃をはじめる。
サラスは焦る様子もなく続行している。俺を信用しているのだろうか。
接近しているのは炎の精霊と木の魔物、岩石の龍。
炎の精霊はおそらく『サラマンダー』と呼ばれる中級精霊。そこまで強くない。
木の魔族は『トレント』……の上位種か。
岩石の龍は先ほどから岩を飛ばしてきている。そこまで優先度は高くない。
先に動き出したのはサラマンダー。サラマンダーは腕を振り、炎の弾を飛ばしてきた。
火なら今の俺なら対処は簡単だ。
トライデントを一振りし、塩水の竜巻が起こり炎の弾は消えた。そのまま竜巻は進み、サラマンダーの直前まで進んだが、トレントが地面を叩くとサラマンダーの足元から大きな木の壁が地面から生え、かき消されてしまった。
そのタイミングでサラスの魔力充満が終わった。
「バブルラング!!」
サラスはシャボン玉のようなものを複数出し、それらがサラスの魔力が充満した空間を移動する。
それらが向かう先は飛んでいる龍だけではなく、サラマンダーなど全ての敵に向かう。
そして、敵の近くにいくだけだと思ったがそれでは止まらず口から体内に入っていく。
――瞬間、骨の騎士以外の魔族が破裂した。
何が起きたのかわからなかった。
「ついでに全部やろうと思ったんだけどあの騎士はダメだったわ。あれは普通に倒すしかないわね。」
「ちょ、ちょっと!今何したのよ!!私の補助魔法も貫通したんだけど!?」
ブラッドクイーンが怒る。
「んー、簡単にいうと体の中にたくさん爆弾を入れて起爆した、って感じ?補助魔法って何したの?全然わかんなかったけど?」
「は!?何よ……そんなこと……。」
「っていうか、あんたも戦ったら?もうすぐ全滅するよ?っていうかしてるし。」
そういってサラスが奥に鎮座していた骨の騎士を指差す。
俺とブラッドクイーンがその方向をみると骨の騎士は首の骨と両腕両足の骨が切断されており、骨の馬の方は完璧に真っ二つになっている。
「え?何……が…………。」
そこでブラッドクイーンの首が刎ねられ首から大量に血が噴き出る。
今まで浮遊していたブラッドクイーンは地面に落下し力なく倒れる。
辺りは静寂に包まれた。
そしていつの間にか死んだブラッドクイーンの後ろには見下すように立っているコキジの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます