第二十五話 救援
「ん、気づいたんだ。そうだよ。これはお母さんが眷属にしたやつを貰ったの。この子なかなか強くてお気に入りなんだよね。名前はカリヴくん!いい名前でしょ?私がつけたんだー。」
違う。彼の名前はリグ=ベルト。昔から騎士の家系であるリグ家の最高傑作だ。おじいちゃんの側近の騎士、だった。何度も名前と写真を見てきた。戦死者の名前は全員覚えている。カリヴなんて名前じゃない。
それなのに、目の前の騎士は肌が爛れ、不可思議な魔法で年老いていない。本来だったら百七十八歳。
「なぁ、その騎士の君主は誰だ。誰か知ってるか。」
「え?私よ?まぁ、昔はお母さんだったけどね。」
「違う!!その騎士の君主は生まれてから死ぬまでアダムス・クロノだ!」
「アダムス・クロノ?アダムスって言うとウェザリアの国王の名前よね。あ、もしかしてこの子がいた頃の王様?へーそうなんだ。覚えとく。」
「展開:ゲイボルグ!!生成:ゲイ・ジャルグ!!」
俺はその作った槍をノータイムでブラッドクイーンに投擲する。
「もう危ないなぁ。」
しかし、そう言った瞬間、リグの体が浮き上がり、俺の投げた槍がリグの胸に刺さる。槍はリグに止められ、旧式の装備では俺の投げた槍が防げずにちが噴き出る。
「あれ、死んじゃった?うーん、動かないなぁ。おーい!生きてる?……もう死んじゃったの?残念。強かったのに……。」
ブラッドクイーンは変に悲しそうに死を確認するとそれを地面に落とした。
「もう私怒ったからね。クーちゃん!やっちゃってよ!!」
「キアャ―――!!」
指名されたクーちゃんと呼ばれた虹色の大きな鳥は伝説の『ククルカン』と呼ばれる生物。それは翼を広げ甲高い声で一鳴きした。
瞬間、辺りに強い風が吹く。それは地面の砂を巻き上げ、城壁の篝火を消し、リグの死体は宙に巻き上がり見えなくなった。
「クァ―――!!」
もう一鳴きしたククルカンはその大風を鋭利な刃物のようなものに変えていく。
俺はその不可視の鋭利な風を感覚だけで避ける。ただの風なせいで槍では対処できない。
俺はしばらく鋭利な風を避け続けた。その間一分程度。何度か認知できずに傷を負ったがこれくらい容易い。
さて、どう倒すか……正直無視でもいい気もするがおそらくしばらく経つともう一度あの攻撃が来る。ただ、あの攻撃をしている間に他の攻撃も来る。優先順位は……。
「っと!!」
そんなことを決めあぐねていると頭上から大きな金棒が振り下ろされる。
ギリギリ避けることができた。金棒の主を見てみるとそこには右手に金棒、左手には瓢箪を持った俺と同じぐらいの身丈をした青白い鬼がいた。
「おや?これを避けるんだァ。まァ、いいや。……ん。あ?もうなくなっちまったかァ。また殺さねェとナ。」
「あ?誰に向かって言ってたんだ。クソ鬼が。お前の種族は雑魚なんだよ。」
「ん、なんのことを言ってるのかさっぱりわかンねェけど。」
そう言った鬼は空になった瓢箪を地面に投げ捨て俺に向かって走り出す。
やっぱり雑魚だな。
鬼は金棒の届く距離の一歩手前まで近づいた段階で金棒を振った。それは振る最中に踏み込まれた半歩によってようやく完成した一撃。
しかし、俺はそんな攻撃なんか予測できた。
身を少し横にそらし金棒を避ける。そのまま手に持っているグングニルで鬼の胸を横から一刺し。
鬼は顔面から地面に崩れ落ちた。
そのタイミングでククルカンのクールタイムが終わったのか再び声を上げ、鋭利な風を起こす。
「くっそ。タイミングが悪すぎる!」
目の前には中身のない鎧の騎士が近づいてきている。
風を避けながらこれと対峙するのはなかなかまずいような気もする。
それは宙に浮き、手には大ぶりな片手剣を持っている。鎧には数々の傷があり、ところどころに血がついている。
中身がないのに鎧と離れた部分である手甲が付いているのをみると元々肉体があったような感覚を覚える。だとしたら兜がないのが少し気になるが。
なんだろう。亡霊のような冷たさ、寂しさもある。もちろん一番強く感じるのは殺気。
相手が亡霊であってもやるしかない。武器の有利は俺がとっている。
俺は三叉の槍を突き出し、鎧を攻撃する。が、ダメージが入っている感覚が全くない。
本来だったら見えている肉体の部分を攻撃することができるがこれは無理だ。空ぶりに終わってしまう。
俺の隙は見逃してもらえず鎧の亡霊はない腕で剣を振るう。
避けることは叶わず、渋々槍で受ける。
腕がないのにも関わらずそれは常人以上の膂力があり力で押し負けてしまいそうになる。
ただ、俺には体がある。脚で鎧の胴体を蹴りつけダメージは与えられずとも距離を取ることはできた。
「さて、どうやって攻略しようか……。」
「あら、ライアンくん、困ってるの?助けてあげよっか?」
突然後ろから女性の声が聞こえた。つい振り向き槍を構えてしまったがそこにはサラスの姿があった。
「散歩してたらライアンくんが戦ってるのを見てね、大丈夫かなとも思ったんだけどよくよく見たら強者揃いだったから。きちゃった。」
サラスは「てへ。」と言わんばかりに言葉を放ち切った。
「すごく……助かる。」
「でしょ?さ、再会するよ。」
二人で再び向き直すと鎧の亡霊はそこまできていて剣を振るっていた。
咄嗟に槍で防いだが……。
「アクアスラッシュ!!」
隣いたサラスが両手を構えて水の刃を射出した。
それは俺の槍で傷つきもしなかった鎧をいとも簡単に切り裂いた。
胴体が胸の辺りで断裂した亡霊は消えたのか鎧だけがドンと落ちる。
「っていうかいすぎじゃない?」
「これでも減らした方だ!」
「ちょっと!そこの女!誰なのよ。ブス。」
「何?誰がブスって?まさか私じゃないわよね、このメスガキ。」
「おい、あんま乗るなって……。」
「聞いてんのメスガキ?」
「メスガキじゃないからわかんなーい。どこにいるのー?」
「どう見てもあんただろメスガキ。」
「私百歳超えてるけど?」
「じゃあババアじゃない。ババアでメスガキこの。」
「はーい殺します。あんたは眷属にすらしたくないわ。ブス。」
そういった途端、さまざまな方向から雄叫びが聞こえる。右側には真っ赤に燃え盛る炎の塊。左側には全身を岩石に包んだ竜。上空にはククルカン。奥には骨の馬が前足を上げて屈とうをし、その上にいるすでに骨の人物は剣を振るっている。その両サイドにいる二頭の多頭の狼は空に向かって吠えた。一番近い距離にいる大きなスライムは元気よくぴょんぴょん跳ねている。ククルカンほど高くない高度を飛行している二頭の龍は興奮し、激しく飛び回っている。木の魔物は自身の腕とも言える枝をたたき威嚇している。
彼らは彼女の声に応じて興奮状態にさせられているように見えた。
「あら、私まずいことしちゃった?」
「そうだな。」
「さ……やろっか!」
それには一度だけ頷き槍を構える。
「展開:グングニル。生成:トライデント。」
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