第二十四話 因果
「やぁやぁ、ずいぶん派手なことをしてくれたねぇ。」
声の出どころがわからない。耳のすぐそばで聞こえるようにも思えるし遥か遠くの存在しない場所からの声だとも思える。
「誰だ。どこにいる。」
「ここだよ。」
その声が聞こえる瞬間、声の方向がわかるようになる。
真上だ。真上を見上げるとそこには漆黒の翼を生やし、ツノを生やした妖艶な女がいる。
あれは……
「ん、もしかしてウェザリアの血が入ってるの?懐かしー。まだ生き残りがいたんだ。あ、そういえばお母さんが『取りこぼした』っていってたっけ。まぁいいや。ここで殺しちゃばいいわけだしね。」
やっぱり。
「お前は『赤の災禍・ブラッドクイーン』だな?こんなところに何しに来たんだよ。」
「いやさ、私の眷属がこっぴどくやられてるって聞いたからさ、どんな奴らなのかなーって見に来ただけ。でもまさか一人で千体やってるのを見た時はびっくりしちゃったけどね。」
「それはどうも。お前もあんな弱い奴らより強い奴を眷属にした方がいいと思うぞ?お前の母さんのはもっとまともな眷属だったと思うけどな。」
「はぁ?私の眷属が弱い?あんたの勘違いよ。ま、まぁ?あれが私の最高戦力でもないからなんて言われてもいいんだけどね。」
「じゃあ早くその最高戦力をつれてこいよ。俺が全員潰してやるからよ。」
「わかったわ。私の全勢力を持ってあんたを私の眷属にしてあげる。あんたの言う強い奴ってこういうことでしょ?」
「そうだな。できないと思うけどな。」
「もう好き放題言っちゃって。そんなこと言えるのも今だけだよ?集え!私の眷属達!」
その言葉に応じたのか魔法陣が現れ、そこから大型の鬼や電気を纏う鳥、猪に乗ったゴブリン、骨の馬に乗った骨の騎士。きっとカルムだったらどれか一体とでも勝てないだろう。並の軍でもそうだと思う。
これは少し骨が折れるかもな。
「どう?私の戦力は。なかなか強いんじゃない?」
「少しはやれるやつもいるみたいだな。でもこいつはもう生きてない。ただのゾンビだ。そうだろ?」
そうなはずだ。俺の記憶でも夕方持ち帰った本にもそう載っていた。『赤の災禍・ブラッドクイーン』はヴァンパイア。ヴァンパイアは死んだ肉体に残る抜け殻の魂に干渉することで自分の配下にさせる。
ただ、何か……
「でしょでしょ!で……ゾンビ?あぁ!さっきの子たちね。そうだね、さっきのはゾンビよ?どうしたの?」
「さっきのは……ということはこれは違うのか?だとしてもなんで。どうして。そんなことはできないはずだ。」
「うん。この子たちはゾンビじゃないよ?もしかしてわからない?あなた、武力はあっても知力はないのね。ははっ!なんでゾンビじゃないんだろうねー?わかんないねー?」
くっそ、なんだよ。煽りやがって。
ただ、こいつらがゾンビじゃないとしてもどうせこのレベルだ。気をつけるべきはブラッドクイーンぐらいだろう。
やれる。
「展開:
出現した槍は穂先が大きく一メートルを超えている大ぶりな槍。かなり重く力が弱いヤツは持つだけで限界だろう。
「ふーん、君が強いのってその槍のおかげなんだ。そこから強い武器を取り出してるだけなんだ。」
「はっ!言っとけ。」
さて、これからどうするか。敵は雑魚の寄せ集めではなく少数精鋭。数は十五。ただ、そのどれもが個々での能力が高い。
それがこいつらの弱点だ。こいつらがもし連携しないといけないほど弱かった場合は連携の心得があると言うことになり別種族であっても連携されてしまうが個々での能力が高いなら連携なんかする必要がない。
俺は各個撃破するだけで横槍は入れられない。
「さて、誰から始末するべきか……っと!そんなこと考えてる暇はなさそうだな。」
皮も肉も血も内臓も全てが失われ、闘争本能と魔力だけで生き永らえている骨の恐竜が牙を剥き出しにして突撃してくる。
蜻蛉切の重厚な穂先を振るってその骨を砕く。
リーチは勝ってる。
恐竜の牙が届く前に蜻蛉切が当たり、その顔面は粉々に吹き飛ぶ。ただ、まだ死んでいない。首から上がなくなったと言うのに今度はその短い腕を振り上げ爪で引き裂こうとしている。
蜻蛉切の重量のせいで反動がでかい。このままでは爪にやられてしまうが、後ろに下がることも再度降り直すこともできない。グングニルでは軽すぎて刃が届かない。仕方なく、横に転がりぎりぎり避ける。骨は軽く、再度腕を振り上げる。
今度は間に合う。立ち上がり、蜻蛉切を右から薙ぎ払う。それは恐竜の左腕に当たり砕ける。
そして、その勢いのままもう一回して恐竜の胴体を砕く。
流石に体を動かせなくなったのか残っていた二本の足はバラバラと崩れていく。
「はぁはぁ。」
かなり体力を消費した。あと十四。
「グァ―――!!」
頭上から何かがくる。それは人型の魔族。爪を構えている。なら、蜻蛉切を横に構えて攻撃を防ぐ。
防がれた魔族は地面に足をつけて対峙する。
その姿は全身を毛で覆い、それでいて服を着ている。それは『人狼』。
今夜は満月。人狼の能力は最大だ。
人狼は低姿勢で爪を前にだしている。そして、一瞬で目前まで爪が迫る。だが、避けれる!
身をくるりと翻して蜻蛉切を突き出す。
しかし、それは距離を取ることで避けられてしまう。でもそれが狙いだった。
「ブライト」
俺がそう唱えると辺りは激しい光に覆われ、俺含めて視界が激しく悪くなる。
そして事前に覚えていた人狼の位置に蜻蛉切を投げる。
二秒もしないぐらいで光は消え視界が開ける。人狼がいた場所には胸に槍が深く刺さって倒れている一匹の人狼の姿があった。
「展開:グングニル」
早く。次のがくる前に。
「生成……くっ、間に合わない!」
展開したグングニルを戻し構える。目の前には剣を持った人間が一人歩いてきている。
武装は……!
あの武装は、ウェザリアの……。それも百五十年前の旧式。
「ん、気づいたんだ。そうだよ。これはお母さんが眷属にしたやつを貰ったの。この子なかなか強くてお気に入りなんだよね。名前はカリヴくん!いい名前でしょ?私がつけたんだー。」
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