第二十三話  ライアンの戦い

 サラスとの特訓を終えた僕は部屋に戻るとオッドくんは寝ており、ライアンは本を読んでいた。

 

「僕もそろそろ寝るね。」


 することもないし本の中身をみてしまったから少し気まずいのもある。いずれは話したいけど今じゃない。

 僕はライアンに一言断りを入れてライアンに背を向けて布団に入る。


「なぁ、カルム。お前、この本見たよな?」


「え、まぁ……うん。ごめん。」


 僕は変わらず背を向けて返事をした。


「まぁ、謝んなくていいんだ。読めるところにおいて読むななんていえないしな。で……どう思った?」


「どう思ったか……。全部読んだわけじゃないからなんともいえないけど、すごいなって思った。あんまり印象は変わってないかな。相変わらずぶっきらぼうで自信たっぷりなライアンのままだし、幼少期のライアンが一人で倒しちゃうのも想像できちゃうし。」


「そっか。ま、印象が変わっても変わんなくてもいいんだがよ、これって周りに言うべきだと思うか?」


「僕は言ってもいいと思う。ウェザリアっていう国のことはよくわかんないけどそんなにこの国と因縁があるとかでもないんでしょ?だし、ここの人たちはみんないい人だよ。王女様もいるから王子がいてもなんとも思わないしね。」


「そんなもんか。わかった。ありがとう。機会があったら告白してみる。もう寝ていいぞ。疲れたろ。」


「うん、おやすみ。」


 ライアンと話した後、僕は色々考えようとしたが疲れが溜まっていたのかすぐに意識を失ってしまった。



 ――――――――――――――――――――――――



「寝たか。」


 俺はカルムに俺らしくなく、悩みを打ち明けた。

 

「散歩するか。」


 相棒の槍を背負って部屋を出る。

 昔から散歩は好きだった。特に夜の散歩。あっちにいた頃は人目を憚って昼は散歩できなかったが夜だけは一人で城を抜け出して街を歩いていた。

 

 一階には誰もいない。全員部屋に行ってしまっているのか。部屋からも話し声はしなかったからみんな寝てしまっているのかもしれない。


 外に出ると街の方は意外と賑わっており、酒場のようなものに光が集まっている。賑やかなのはあまり得意じゃないな。


 俺は魔族領とこちら側を分つ大きな城壁に登る。しばらく階段を登ると城壁の上に立つことができた。


 あちら側からこっちに入る方法がないように見えるけどどうするのだろうか。特に考えなくても方法はあるのだと思うが。


 

「ん?」


 なんだあれは。魔族か?もちろん壁の向こう側にうじゃうじゃいるのは理解してるしローズも「もし魔族がいても気にしないで。こっちに来れないから。」なんて言っていた。

 

 ただ見過ごせる量じゃない。うじゃうじゃと言っても目に見える範囲で百ぐらいが限度だろう。

 

 しかし、目の前には千はいる。これは……流石に見過ごせないよな……。

 

「しゃあ!一足先にやっちゃうか!」


 あいつらを呼ぼうと思ったが寝起きの判断能力で相手する量じゃない。それに俺だったらこれくらい余裕だ。

 みたところ特別な個体はいなそうに見える。

 俺は槍を構えて壁から飛び降りる。壁を背にして一方からのみにする戦闘方法も悪くないが俺が満足しない。こんな最高のステージ。精一杯楽しまないと。


 槍を前に出して道を開ける。正確に真ん中ではないけどまぁいい。無理はしないほうがいい。


「おら!!雑魚ども!まとめてかかってこいよ!!!!」


 俺は槍を握りなおす。

 魔族が押し寄せてくる。鳴き声はまるで地獄にいる死の亡者たち。


「魔装展開:ゲイボルグ」


 俺の声に呼応して槍は変化を遂げる。

 槍の先端は大きく開き三叉に分かれる。そして柄の先からもう一本槍が生成される。


「生成:独鈷杵」


 ゲイボルグの三分の一程度の長さの全身が金属で作られた槍が生成される。

 ゲイボルグを右手に短く持ち、独鈷杵を左手に持つ。


 死の亡者どもは連携も碌にせずただ向かって来ているだけ。

 俺は二本の槍を振るう。頭、腕、腹、腰。槍はそのリーチを活かして一対一の対人戦では最強格に君臨している。だが、集団戦、近距離戦では他の武器に大きく劣れを取ってしまう。

 だが、俺は違う。二本の長さの違う槍を使い、リズミカルに、軽率に魔族を屠る。

 独鈷杵は先端が尖っていなく刺突ができない。だがそれが良い。両端についた打撃用の穂が次々に魔族を粉砕していく。それはダンスのようだった。独鈷杵を器用に回しながら両面で粉砕する。返り血はついていない。


「五十。五十五。六十。あぁ後何体いるんだよ!…………八十!」


 やってもやっても数が減らない。

 くっそ。しょうがないな。


「一切皆苦!」


 独鈷杵を天に掲げ、それは激しく回転する。それはまるで輪廻のように。

 次第にその輪廻は大きくなっていき、魔族に触れる。

 輪廻に触れた瞬間、魔族は光の粒子となって消える。


「輪廻転生。」


 それは新たな生命を祝福するかのようにそこら一帯は光に溢れる。

 

「残り六百といったところか……。展開:ゲイボルグ!」


 再び三叉に分かれた槍の中心から槍が生成される。


「生成:ブリオナック」


 生成された槍は至ってシンプルなデザインで何も能力がないように見える。ただ、手に持つとわかる。穂先の方からものすごい魔力の波動を感じる。槍がしゃべっているように「魔力をくれ。早く共鳴しろ。」と強制してくる。

 

「しょうがないな。いいぜ。俺の魔力なんていくらでも持ってってくれ。その代わりに全滅させてくれよ?」


 穂先が光りだす。赤色と黄色が混ざりそうで混ざらない。


「ウィルダーナハ。」


 二色の光はそれぞれ違うものに変化する。

 赤の光は大きな太陽に。黄の光は黒い雷雲に。


 太陽は槍の先に止まり俺はそれを振るう。太陽の熱にさらされて周辺の魔族は消え、さらに太陽は槍から離れ、魔族の集団の中に大きく穴を開ける。


「残り三百。」


 黒い雷雲は天に登り、無数の雷鳴を轟かせながら生命を穿つ。

 一本の雷は五十の命を屠り、もう何本降ったか覚えていない。

 

 三百体の魔族は徐々に数が減っていき、雷一発あたりの掃討数は少なくなっていく。

 雷は百発を優に越え、雷は鳴り終わり、あたりにいた千の魔族は跡形もなく消えた。


「やぁやぁ、ずいぶん派手なことをしてくれたねぇ。」


 声の出どころがわからない。耳のすぐそばで聞こえるようにも思えるし遥か遠くの存在しない場所からの声だとも思える。


「誰だ。どこにいる。」


「ここだよ。」


 その声が聞こえる瞬間、声の方向がわかるようになる。

 真上だ。真上を見上げるとそこには漆黒の翼を生やし、ツノを生やした妖艶な女がいる。


 あれは……お

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