第9話
長かった16年間を振り返り、王女は雨が上がり始めた空を見上げた。
「アメガアガッタヨ」
「ヨカッタネ」
精霊族や人間と関わりのない種族にはあらかじめ防御魔法をかけてあった。
「あなたたちはそろそろ奥地に戻りなさい。とても助かったわ」
辺りを飛び回っていた精霊の防御魔法を解き、帰るよう促す。
「バイバイ」
「アトデアソボーネ」
負の感情というものを知らない精霊達を見送りながら王女は、考える。
精霊や生き残っている種族はこの豪雨で何が流れたのか理解していないだろう。たった数刻で大陸に存在していた生命の頂点に君臨する種族らが全て滅び去ったことの意味を知らないだろう。
でも、それで良いと彼女は思う。高度な知能なんて必要ないのだ。
王女は、これからこの大陸で生きるには知能が高すぎた。人間の血が濃すぎたのだ。正しい姿の大陸に彼女は不必要だった。
王女は母の命を奪い、王の身体を貫いた短剣をもう一度握る。雨が上がり雲の隙間から漏れ出す光に眩しげに目を細めると笑みを浮かべて短剣を自らの身体に突き立てた。
◇◇◇
大陸中に緑が蘇り、それぞれの種族がただ自然に身をまかせ生を営むこの時代、1人の若い精霊が小高い丘の上に登る。そこには一面紅色の美しい花が咲き誇っていた。この花の名を精霊族の間では「最後の王女」と呼ぶ。若い精霊は何故そのように呼ばれるか分からないし、考えもしなかったが、そこに行くと1人の少女の記憶を感じることができた。それが誰なのか分からないがどこか懐かしく、あたたかい気持ちになれるので若い精霊はよく花を見るため、丘に登っていた。
最後の王女 黒三毛 @daru-san
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