第8話

 他種族間での混血が進んだ今から300年ほど前、異常気象が大陸各地で起こった。突然の豪雨に、長雨、異常高温などがあった。また、持病もなく若いのに体調不良を訴える人が増え、大陸の歴史上初めて感染症というものの存在が確認され、何百万という人が亡くなった。原因を探ったところ、これまでの人間による科学技術の発展によって自然界に存在しない物質が排出されていたり、生態系が破壊され環境が変わったことによるものだということがわかった。当時の王は苦悩した。この問題を解決するためには、人間の知の結晶とも言える科学技術を制限しなくてはならなかったからだ。熟考の結果、王は根本的な解決を諦めた。この生活の質を落とすことは不可能であった。混血が進み魔法を使う人間が増え、魔族の人間社会への進出が進んだ今、魔力で解決するということに現実味があったのだ。大陸中の魔力持ちを集め、巨大な防御魔法を大陸全体にかけた。ゆえに大陸はつねに晴天となったがそれだと不都合なので、天気はその中で自在に操れるようにした。また防御魔法を人間の体にもかけるため生まれたばかりの子に予防接種を義務付け、魔法を溶かした薬を体内に入れさせた。異常気象、謎の体調不良、これらの本当の原因が大陸の住人に伝えられることはなく、王も記録に残さなかった。これまでと同様にこれからも完璧な美しい大陸であろうとしたのだ。

 しかし、どんなに保護しても、どんなに上部を繕っても、見えないだけで徐々に限界が近づいてきていた。


 気づいている者はいた。

 記憶を読み取ることのできる精霊族は異常気象の原因も、人間の王が魔法で隠していることも全て知っていた。しかし彼らは人間や魔族など大陸に存在する他種族に対して嫌ってはいなかったが、好んでもいなかった。関心がなかったのだ。人間がやっていることがどういう結果を引き起こすのか考えるだけの知能もなかった。


 王女がこの大陸が危機的状況に直面していることを知ったのは母が殺されてから5年が経った頃であった。母が殺されても、精霊族の長と連絡を取っていた彼女は時折精霊が住む大陸の奥地に行っていた。そこには大陸の過去から今までのことを知ることのできる湖がある。母からその話を聞いていた王女はどうしても行きたかったが、王女のことを好いていた精霊達は彼女と湖へ行くよりも遊ぶことを好んだ。しかしある日精霊達は気まぐれに奥地へと来た彼女をその湖へと連れていってくれた。そこで王女の父である王の所業とともに大陸の状況も知ったのだ。

 王女もまた精霊達を愛しており、母を手に入れるため森を焼き払った王に対して新たに怒りを募らせさらに深く彼を憎むようになった。また、彼女は精霊達と異なり高い知能を保していたので大陸がもう間もなく限界を迎えることを理解した。300年前、当時の王が命じてかけた防御魔法では抑えきれないほどの状況にまで大陸も、人間や人間に交ざって生活する種族の肉体もなっていたのだ。そのことに気づいていない者達に、王女は哀れみを通り越し、救いようのなさを感じた。彼女は憎っくき王を含む人間らが自滅していくのは何とも思わなかったが自らが愛する精霊達、その他人間とは関わらずに古代からの生活を送っている種族が人間らの自滅に巻き込まれることだけは許せなかった。それゆえ彼女は考えた。母と多くの精霊を殺した王に復讐をしつつ、この大陸を正しい姿に戻そうと。だから本当であったらディニテイアの3年前には壊れる大陸と人間、その他種族にかけられている防御魔法を自らが持つ神性力によってそのときまで持たせ、王の演説終了に合わせてその力を解き、さらに神性力によって魔法妨害を行った。ただ、王への復讐のため王を含む3人の防御魔法は解かなかった。

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