第91話 100分de名著 いのちの初夜

 今月のNHKEテレ「100分de名著」は、北條民雄『いのちの初夜』が取り上げられています。北條民雄、知ってます? 知りませんよね、多分。わたしはまったく知りませんでした。戦前の人です。若くしてハンセン病を発症し、療養所に入所。『いのちの初夜』をはじめとしたハンセン病に取材する小説を発表した作家です。


 ――ハンセン病かあ。


 ハンセン病。知ってます? わたしも詳しいことは知らないのですが、「らい病」と言われていた伝染病です。皮膚、末梢神経が癩菌に侵されると、外見・容貌が著しく損なわれるため、非常に恐れらた病です。戦前は、その原因、治療法共に分からなかったため、患者は健常者から隔離される措置がとられました。


 ――気が進まないな。


 松本清張の社会派ミステリ『砂の器』で、ハンセン病者とその家族がテーマとして取り上げられているのは有名ですが、わたしがハンセン病について知ってるのはそれくらいです。ハンセン病については、患者に対する差別と非人道的な隔離措置の年月が重く、長くのしかかっていて、ちょっと番組を見る気が起きなかったんですよね。


 でも、NHKプラスで見たのですが、とても興味深かったです。おもしろかった。ハンセン病患者が不当に社会から隔離される――って、なにもハンセン病に限ったことじゃないぞ、って思い当たったからです。


 例えば、高齢者が入居する施設はどうでしょう。高齢者入居施設って、ホテルやマンションのようなものから病院としか見えないものまで様々あると思いますが、わたしには監獄のように見えるときがあるんです(言葉が強くてすみません)。


 高齢者ばかりがつい住処すみかとしてひと所に集められる――って、まるでハンセン病の療養所と重なるイメージです。どうして社会から隔離されるような形で高齢者ばかりが集められなければならないんですかね? ハンセン病は伝染しますが、高齢はうつらないんですけどね。それでも隔離しますか。


 ――ある種、人の本性だろうか。


 望ましくないから、ですよね。もっというなら、おぞましいから、かな。ハンセン病になって容貌が損なわれるのも、老人となって病み衰えていくことも。


 若くて健康な人にとっては直視したくない「自分がそうなる可能性」であったり「やがてやってくる未来」であったりするから。恐ろしいからひと所に閉じ込めて、蓋をして、見ないようにするわけですよね……。


 『いのちの初夜』で描かれたハンセン病患者が受けた苦しみの物語は、病気の治療法が確立されたことで過去のものとなりつつありますが、いまはまた別の差別や苦しみが生まれてはいないか――とても興味深いです。

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