第90話 いずれ古典となっていく
広島市教委は2023年度、市立の全小中学、高校の平和教育プログラムを初めて見直す。小学3年向けの新教材では、これまで採用していた漫画「はだしのゲン」を「漫画の一部を教材としているため、被爆の実態に迫りにくい」などとして削除。別の被爆者の体験を扱った内容に差し替える。(中国新聞)
このニュース、原爆の悲惨さを伝えるマンガ『はだしのゲン』が、お膝元である広島市の平和教材から消えてしまうショックを伝えているのですが、どこまで共感してもらえるのか……と思ってしまいました。
控えめに言って『はだしのゲン』は原爆文学の傑作ですよ。ただ、古い漫画(1973年「週刊少年ジャンプ」で連載開始)であることは確かで、いまの作中登場人物の価値観はいまの子どもたちのそれとはかなり違っているため、作品の素晴らしさが伝わらないのではないかと思います。
連載開始から50年。50年といえば「事実」が「歴史」に変わりはじめる年月です。『はだしのゲン』が小学生の平和教材に使用されているのは、マンガだから子どもたちに理解しやすいだろうという理由もあると思うんですね。でも、いくら子どもたちの好きなマンガとはいえ50年も前の『はだしのゲン』に描かれていることが、いまの10歳前後の子供たちに響くかというと……。
時代錯誤が過ぎて、「大人による押し付け」と感じられやしないかと心配します。なにせ描いてあるのは「歴史」です。平和の勉強をしているはずが、昭和20年代の歴史まで勉強しなければならないとなると、子どものために分かりやすいマンガを教材に選んだはずが逆効果ですからね。小学校の教材から姿を消すのは仕方がないと思います。
思い返せば、わたしが小学生の頃は、世の中にまだまだマンガは悪書という雰囲気が残っていた時代。学校で唯一読んでいいマンガが『はだしのゲン』でした。そこに描かれた被爆者の描写は強烈で、たぶんわたしは死ぬまで忘れないし、核爆弾の恐怖は『ゲン』と共にありつづけると思いますね。
『この世界の片隅に』がアニメ化されて高い評価を受けたのは2016年でした。わたしもマンガ『この世界の片隅に』を読みましたが、同じヒロシマへの原子爆弾の投下を描きながら、『ゲン』と比べると、戦争や原爆に対する作者の思いがしなやかです。戦争から遠ざかったいまという時代に受け入れられる原爆文学の形が『この世界の片隅に』のしなやかさに表されているのかもしれません。『ゲン』は現代性を失い、古典になったと考えていいんじゃないでしょうか。
って書いてきましたが、いまの人が『はだしのゲン』をどれくらい知っているんでしょうねえ……。
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