第86話 Web小説の賞について

 少し前のニュースに「刑法犯の認知件数が20年ぶりに増加した」というのがありました。コロナの規制緩和が影響したためだと解説したものが多かったのですが、今回は「犯罪」ネタでエッセイを書いてみたいと思います。


 その前段階として「刑法犯の認知件数」について説明すると、刑法犯とは「刑法」に規定されている犯罪のことです。殺人とか強盗、詐欺などは刑法犯ですね。刑法犯でない犯罪もあります。例えば、覚醒剤を使用するのは犯罪ですが、刑法ではなく覚醒剤取締法という法律に罪と罰が規定されています。こういう犯罪は「特別法犯」といい「刑法犯」とは区別されます。


 あと「認知件数」とは「警察が把握することのできた犯罪の件数」のことです。犯罪に遭った人すべてが警察に届け出るわけはない(窃盗罪で半分、性犯罪は数分の1と言われています)ので、実際に発生した犯罪の件数ではありません。あくまでも目安としての数字です。


 罪種が限定されており、なおかつ発生の実数ではないことから「意味がない」と考える人もいます。その時々における犯罪の発生状況を知る指標としては意味があるんじゃないかなと思っていたのですが、最近では少し怪しくなってきました。


 この数字、なぜ20年ぶりに増えたかより、どうして20年間も減り続けていたのかの方により意味があるとわたしは思ってます。


 それは、犯罪者が現実リアルの世界で他人の家に忍び込でお金を盗むより、ネットの世界で人を騙してお金を指定の口座に振り込ませる方が、効率的で安全だと気づいたから。犯罪の実数はこれまでと同じか、むしろ増えているのに「刑法犯の認知件数」に含まれない――統計には載ってこない犯罪が増えたということです。


わたしのメールアドレスには、毎日、たくさんの迷惑メールが届き、その中にはフィッシング詐欺のメールがいくつも含まれています。わたしはそんな詐欺メールまったく相手にしません。もちろん警察に届けるようなこともありませんが、形態としては詐欺未遂。刑法犯ですよ。こういうメールを犯罪の端緒としてカウントしはじめると、この20年で刑法犯の認知件数は激増してるはずなんですよね。


 犯罪統計の取り方がおかしかったんです、きっと。インターネットが生活に浸透していくなかで、新しく生まれた犯罪形態の発生数を警察は把握しきれていないってことです。



 カクヨムコンが終わりましたね。第8回だったのですから、カクヨムがはじまって8年目ってことですか。結構経ちました。Web小説も「文芸」のなかで一定の存在感を示しはじめたんじゃないですかね。


 でも、Web小説って文芸の世界では存在しないも同然の扱いを受けているように感じています。カクヨムコンにしても、書籍化・マンガ化がそのご褒美であり、受賞してはじめて作品として認められるって感じがします。そうでない投稿作は有象無象ってわけ。


 ただ、受賞しない小説の中にも大勢の読者を抱えている作品があって、むしろそういう作品の方が圧倒的に多く、Web小説界を下支えしていると感じてます。わたしはこういう「書籍化されないけれど素晴らしい小説」をみつけて賞を送る――そんなWeb小説賞がそろそろ出くると思います。そうでないとおかしい。世の中に存在する小説の総数は、書籍化されたものとネット上のものと、そろそろ逆転してるんじゃないかな〜。


 いまは書籍化作品の方が質の良い作品が集まるというのは常識だけど、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる――膨大な数のWeb小説の中から書籍化作品を超える小説が現れるようになるじゃないかな。


 犯罪統計のように、数字の取り方を長年見直さなかったため、指標として役に立たなくなってしまった――なんてことが文学賞に起こらないよう祈ります。

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