第64話 そうだとしても書き続けよう

 今月のNHKEテレの100分de名著は、「中井久夫スペシャル」です。中井久夫――知ってますか? わたしは知りませんでした。今年の8月に亡くなった精神科医だそうです。指南役は、時事問題からサブカルまで幅広く評論活動を行っている斎藤環さん。斎藤さん自身も精神科医です。


 テーマは「統合失調症」。


 今月の100分de名著。テーマを知って「Eテレ、攻めてるな〜」と感じたわたしはひさびさにNKKテキストも買いましたよ。精神疾患のなかでも、うつ病と違って統合失調症は、マスコミで取り上げること自体がタブーに近いテーマだと思うんです。(カクヨムでもイマイチかな〜)このテーマで番組を作った制作陣の挑戦にまず賛辞を送りたいですね。


 わたしは統合失調症という病気に興味があります。


 わたしの働く職場で宿直勤務をしていると、不思議な電話がかかってくることがあります。現実には見えなものが見えたり、聞こえたり、現実にはそうでないのに、何者かに監視されていると感じたり、自分の考えが知られている――と訴える人からの電話です。支離滅裂で辻褄の合わないこの奇妙な電話。わたしはこれを統合失調症を患っている人たちからの電話だと勝手に考えています。


 ――どうしてこんな電話をかけてくるのだろう。


 長年の疑問でしたが、番組を見て少し謎が解けたような気がしました。統合失調症は、なんらかの原因で自己と外界の境界が曖昧となってしまい、思考が阻害され、幻覚(幻視・幻聴)妄想が起こる病気です。この症状に取り込まれてしまいそうになる恐怖に晒された統合失調症患者の人が、自分がまだ真に幻覚妄想に取り込まれてしまっていないかどうか――自己と外界のあいだにまだ境界が存在しているの(まだ正気を保っていられているかどうか)を確認するために、電話をかけてきているのではないか、と思いあたったのです。


 顔も名前も知らない人ですが、縁もゆかりもない人に電話をかけることでしか、自分の病気の進行状態が確かめられないというのは、とても気の毒なことだと思いました。



 個人的な興味はおいて、ちょっとカクヨムに絡めて書きますと……。


 中井久夫は、強い幻覚妄想の症状を発症し、統合失調症を慢性化させてしまった患者の人格は荒廃し、回復しない――とされていたかつての精神医学の常識を覆し、統合失調症の回復にはいくつかの段階があること、特に急性期から回復期に移行する時期を発見し、臨界期と名付けました。


 中井の「寛解過程論」は、統合失調症の回復の過程で患者にどんな身体的変化が起こるのか症例をもって実証しなから、慢性状態も不断に変化し続ける寛解の過程にほかならない、つまり治る可能性がある――ときわめて説得的に示した考え方だったのです。


 指南役の斎藤環さんは、統合失調症の治療に絶望していた若い精神科医だった頃、この「寛解過程論」に救われたと書いています。


 従来、治る見込みがないとされた慢性患者を治療する徒労感に絶望していた若い頃の斎藤さんは、慢性期の統合失調症も治る可能性があるという「寛解過程論」の考え方に「希望」を見つけた思いがしたということなのでしょう。。。


 えっ、カクヨムと関係がないじゃないか?

 いやいや。

 書いても書いても作品が読まれない、小説を書くのが上達しない、コンテストに入賞しない……という絶望感にさいなまれているWeb作家の感覚は、若い頃の斎藤さんのそれと似ていると思いませんか。


 書いても書いても全然上達しない。おもしろくならない。自分の才能もここまでか――そういうWeb作家にありがちな行き詰まり感も、次の段階(PV爆上がり、コンテスト入賞、書籍化、etc)への静かな助走かもしれないじゃないですか。


 成果が上がらないことに嫌気がさしても、途中で投げ出すことなく書き続けましょう。藤光は書き続けますよ〜。

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