第5話 大切なことは正しいことではない

 人と人との関係において、大切なことは「正しいか、正しくないか」ではなく、「納得してもらえるか、もらえないか」である。


 エッセイはふざけた調子で書いているわたしですが、現実世界では比較的、原則・正論を主張するタイプです。法律や規範、法則や良識といった「正しいこと」が大切で、ある人の考えが「正しいこと」と対立したときは、その人の考えより「正しいこと」に従うべきだ――と考えがちです。


 人が自分の思うままに行動して、それが認められてしまう社会は、お金持ちであるとか、社会的地位が高いとか、腕力があるとか、そういった人から優先される社会になってしまい、そういうことではすべての人にとって公平な社会が実現できないと感じるからです。


 この考え自体「正しいこと」なのですが、現実にこれが歓迎されているかといえば、ぜんぜんそうじゃありません。


 ――正論を吐きやがって。うっとおしいヤツだな。


 比較的、そういうリアクションを受けることが多いです。

 不本意ですね。笑

 若いころは、そういうリアクションをとる人たちに腹を立てていましたが、最近は「まてよ……」と考えるようになりました。


「正しいこと」って、そうしていない人には耳が痛いじゃないですか。そんなことは承知の上で正しくないことをやってるんですからね。重ねてわたしの方から「正しくないですよ、それ」なんて小言を聞かされるのは嫌でしょう。人間というものは正しいくないことであって、そうしてしまうものなんですね。


 夏休みの宿題をしなきゃいけないのに、「マインクラフト」で遊んでしまう息子とか。

 これ以上、中性脂肪が増えるとヤバいと言われているのに、チョコを食べるのをやめられない奥さんとか。


 彼らに「勉強しないとダメだろ」とか「チョコを食べるから太るんだよ」といってみたところで本人は百も承知していること。「うるっさいなあ」と煙たい顔をされて、行動は改めてもらえないのです。


 大切なことは「正しいこと」を主張することではない。正しいことはわたしが主張しなくとも正しいこととして人は知っているのです。半世紀生きてきてやっと合点がいきました。


 こと、人と人との関係において大切なことは、相手に納得してもらうことなのです。「正しいこと」言って納得してもらえる人には「正しいこと」を言えばいいのですが、「正しいこと」を言っても響かない人にはそれ以外の方法を考えて、納得を得なければならないのです。それでないとその人の行動は変わりません。


 さて、どうやって勉強してもらったり、やせてもらったりしようか……比較的やせてもらう方が難敵だな……。笑笑

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