あなたにもう一度会いたい

佐野 千歳

会いたい

 小学6年生のある日僕は恋をした。

 僕が恋をしたのは近所に住む、中学生のお姉ちゃん。

 住んでいたところがちょっとした田舎で家同士の距離が近かった。

 お姉ちゃんはすごく綺麗で可愛くて優しかった。


 僕は体が小さくて、足が遅くて鈍臭かったからいつもみんなに笑われてバカにされてた。そんな自分が嫌で嫌でしょうがなかった。そんなある日いつもみたくクラスの友達にバカにされてたんだけど、それが苦しくて公園で泣いていた。

 そんな時にお姉ちゃんが「どうしたの?」と声をかけてくれたんだ。

 いつもバカにされていることや、自分の嫌なところをお姉ちゃんに話す。


 するとお姉ちゃんは

「そんなこと気にすることないよ、君は君なんだし堂々としてればいいんだ。」

 と励ましてくれた、それが本当に嬉しかったんだ。

「そういえば君名前は?私はあかねっていうのここの中学生、今は2年生なんだ」

「僕はそら、小学6年生」

 どうやらお姉ちゃんはこの近くにある中学校の2年生らしい。僕も次で中学校に入ることを告げるとお姉ちゃんは嬉しそうに「楽しみだね」と言ってくれた。


 お姉ちゃんの学校が終わった頃にいつも二人で話をしたり遊んだり。

 そんな日々が続いていてもう友達になにを言われても気にしなくなっていった。

 そしてこの日々はすぐに終わりを告げたんだ。

 両親の仕事の都合で引っ越さなければいけなくなってしまった。

 やっとお姉ちゃんに追いつけると思ったのに、やっと一緒に学校に行けると思ったのに。僕はその日初めて両親に反抗した。引っ越したくないと、まだここにいたいと、


 僕は両親に頼み込むがそんなこと了承されるわけもなく引っ越しが決まった。

 引っ越し先はここからものすごく遠いところだった。気軽にここへ戻ってこれるような距離ではなかった。

 引っ越し当日お姉ちゃんは見送りに来てくれた。僕は涙が溢れ出して止まらなかった。


 行きたくない、ここにいたい。お姉ちゃんにそう呟いてしまった。

 お姉ちゃんは泣きそうな顔になりながら


「大丈夫。君なら大丈夫、頑張れ。」

 そう、いつもみたいに励ましてくれた。その言葉が強くとても強く心に響く。

「...うん。大丈夫僕なら大丈夫!僕、足早くなって背もおっきくなってお姉ちゃんに会いにいくから!絶対!約束ね!」


 僕は顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶように言う。

 お姉ちゃんは何か言いたげな、とても悲しい顔をしたけど、最後は笑って送り出してくれた。


 僕はそのまま引っ越した先の中学校に進学した。

 中学校から転校してきた人だったから最初はあまり馴染めなかったけど、ある男の子が話しかけてくれてそこからたくさんの人と話して仲良くなっていった。

 中学校ではバスケ部に入った、バスケなら身長伸びるんじゃないかっていう浅はかな考えだったけど、その願いもあってかぐんぐんと身長が伸びていった。


 バスケは僕が思っていた以上に走らされて、全くと言っていいほど追いつくことができなかった。それでも僕はお姉ちゃんと約束したんだ、という一心で食らいついていった。


 そんな努力もあり2年生になる頃にはレギュラーに抜擢され大きな大会で優勝することもできた。成長期であったことや、才能があっても努力し続けたことが功を奏したのかメキメキと実力をつけていく。2年生になると同年代や後輩からたまに告白されることが増えてきていた。もちろん嬉しいと言う気持ちがあるにはあったが、僕の頭の中にはお姉ちゃんに会いたいという気持ちが強くあり、他のことなどあまり興味がなかった。


 中学3年に上がると受験が迫りたくさんの生徒が焦り出す。けれど僕はそれに当てはまらず、ものすごい達成感があり興奮を抑えきれなかった。

 そうお金が貯まったのだ。僕の住むところからお姉ちゃんのいる場所までは電車賃などでお金がたくさんかかってしまう。両親に頼もうとしたことがあったが自分の力で行き、僕が成長したところをお姉ちゃんに見せたかったのだ。


 早速夏休みに向かう計画を立てる。両親にはお姉ちゃんの場所に行くことを伝えており、それも了承してもらっている。当日まで待ちきれず眠れない夜が続く。

 待ちに待った当日になる。その日は朝ものすごく早くから目が覚め持ち物の確認をして一本目の電車に間に合うように家を出る。玄関の扉を開けると日差しがつきさすように僕へと降り注ぎ夏の暑さを感じさせる。切符を買い電車に乗り込む。


まだまだ都会の景色が続いており高い建物がたくさん伸びていた。2、3時間もするとビル群など消えてなくなり木や山が窓から見ることができた。時間を確認するともうお昼で次の駅で駅弁を買い電車の中で食べる。初めて食べる駅弁がとても美味しく


「うまぁ」


 という声が漏れてしまう。田舎に近づいてきたので周りに乗客はほとんどおらず、

 あまり恥ずかしくはなかった。それから少しの間、電車に揺られていると目的の駅に着く。電車をおり駅を出てバス停を探す。駅のすぐ近くにバス停はあり、目的の町までのバスは後15分ほどでくるらしい。時間に少し余裕があるので駅の周辺を見てみる。やはり都会から離れた町であるためそれほど人は多く見られなかったが今はそれが少し心地よかった。


「やっぱこういう田舎の方が好きだな」

 こんな静かな町が僕はとても好きで、あの町を僕は忘れられない。後少しであそこに戻れるのか、すごく楽しみだな。

 そんなことを考えているとちょうどバスが来た。それに乗り込み過去の思い出に耽りながらバスに揺られる。


 バスの揺れで少し眠たくなって来た頃目的地に着いたようだった。バスをおり軽く伸びをする

「んぁ〜〜ふぅ」

 伸びを終え顔を上げるとそこには3年前に見たあの景色と変わらない街並みがあった。そう。これだ、これだ!僕が見たかった景色はこれなんだ。目が潤むのがわかったがグッと堪え歩き始める。街を散策して回ろうと思っていたのだけど、やっぱり待てない。


 会いたい

 お姉ちゃんに会いあたい。

 その一心で記憶にある道を辿り走り始める。

 しばらく走り息も切れてきた時見えた、あの家がお姉ちゃんの家が。

 興奮をなんとか抑え玄関にあるチャイムを押す。

 少し遅れて「はーい」と言う声が聞こえてきた。

 扉がガチャっと開けられ綺麗な女の人が出てくる。


 出てきたのは3年前とあまり変わっていないお姉ちゃんのお母さんだった

「えっと、どなたですか?」

「こんにちは、おばさん。僕です、そらです。おぼえていますか?」

 女の人は誰だかわかっていない様子だった。

「ほらあのお姉ちゃんに助けてもらっていて、3年前にこの街を引っ越した。わかりませんか?」

 そこまで言うと思い出したようで、嬉しような悲しいような今にも泣き出しそうな顔をし始める。


「どうしたんですか?大丈夫ですか?」

「大丈夫、上がって。」

 おばさんはそういって家の中に入れてくれた。

 リビングに通され「そこに座って待ってて」とソファーに座るように言われそのとおりに座る。


 おばさんがお茶を出してくれる。僕は待ち切れず聞いてみる。

「あの、お姉ちゃんはどこにいるんですか?僕お姉ちゃんに会いにきたんです。」

 その一言を言うとおばさんは泣き出してしまう。

 僕は訳がわからず、何も言えないでいた。しばらくするとおばさんは泣き止み

「ごめんなさいね」

 と謝り出す、そして「あなたには言わなければいけないことがあるの」といい着いてくるよう促してくる。僕は何も言わずにおばさんについていく。隣の部屋に通された。


 僕は見たくないものを見た。

 何も考えられなくなった。

 そこにはお姉ちゃんの写真が飾られている

 があった。


 これはなんなんだと呆然としているとおばさんが口を開く。

「あの子は去年亡くなったの。」

 頭にまるで鈍器に殴られたかのような衝撃が走った。

 それからおばさんはお姉ちゃんについて話してくれた。


 お姉ちゃんは昔から体が弱かったらしい、外に出て遊べるようになるまで相当時間が掛かったという。僕と出会う少し前に病気が診断され余命まで出ていたらしい。

 診断された余命は1年と少しあるかないかそのぐらいだった。僕と出会ったことでお姉ちゃんは少し元気になっていったがやはり病気には勝てなかった、それでも最後まで諦めず2年、生き抜いた。最後まで約束があるから死ねないと言っていて、僕に謝っていたのだとおばさんは言う。


 お姉ちゃんが死んだ。その事実がうまく飲み込めない、なんだこれ気持ち悪い、

 その気持ちを飲み込みながらおばさんに、お姉ちゃんのお墓に案内してほしいと頼む。


 お姉ちゃんのお墓はすぐ近くにあった、少し一人にしてほしいとおばさん言い、お墓に向かう。お姉ちゃんのお墓の前に着く。お墓を目にするだけで「死」というものが明確になる。僕は心の中を吐き出すように話す。


「久しぶりお姉ちゃん、僕さバスケを始めてすっごい身長伸びたんだ。足も早くなったしもう鈍臭くなんてないんだ。この前なんていっぱい告白されちゃたよ。3年前なら全く考えられなかったよね。それもこれも全部お姉ちゃんのおかげなんだよ。

約束...しっかり守って会いにきたよ。」

 視界がぼやけて見えなくなってくる。

 涙が溢れて止まらない、


 会いたい、お姉ちゃんに会いたい、

「うっ..くっ...会いたいよ。お姉ちゃん。」



「そんなに泣かないで」



 どこからかそんな声が聞こえた気がした。

「お姉ちゃん?」

 そう今の声は紛れもなくお姉ちゃんのものだった。

「...うん。もう大丈夫。ずっと泣いてなんていられないもんね、また会いにくるよ。毎年必ず会いにくる。だから僕を見守っていてねお姉ちゃん。...おばさんにちゃんと挨拶しないといけないからもういくよ。またくるね。」

 立ち上がりお墓に背を向ける、後ろから


「頑張れ。」



 幻聴だろうか、いやお姉ちゃんが応援してくれてるんだ。

「うん頑張る。」

 そう告げ、歩き出す。


 見守ってくれるお姉ちゃんに胸を張って生きられるように頑張るために。

 僕は振り返らない。



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あなたにもう一度会いたい 佐野 千歳 @Tatarian_aster

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