第九話
連行される王子を見た後、冒険者ギルドに寄ります。
プシュケ師匠と、数年振りに帰ってきたという大聖女、モリーナ様をお迎えに。
プシュケ師匠が馬車の運転をすると言うので、馬車の中はクロノさんとモリーナ様と三人になりました。
モリーナ様もハイエルフだそうで、クロノさんと同じ髪、瞳の色でとても美しい方でした。
クロノさんと横並びで座る様子はそれはもうこの世の物とは思えないほど美しく、お似合いの、“ズキンッ” 胸が、張り裂けそうなくらいの痛み、これまで耐えてきた痛みなど、痛みではなかったと思うほどの痛みが襲いかかってきます。
涙も溢れとめどなく零れ落ち、後から後から溢れ出て止める事が出来ません。
でも私の見える片側の瞳はクロノさんから外す事が出来なくなってしまいました。
「レアーお嬢様! 如何なさいました! どこか痛みますか!」
クロノさんが肩に手を添え、間近で目と目が合います。
「クロノさん、お慕いしてます」
ああっ! 私は何て事を口走って!
「お、お忘れ下さいませ! 醜い私の言う事など! モリーナ様という素敵な方がいらっしゃるのに私は何て事を! モリーナ様! 誠に申し訳ありません!」
クロノさんの手から抜け出し、馬車の床に跪き足の痛みなど捨て置いて、額も床に叩き付けるように下げ、謝る事しか出来ません。
「クロノ兄ちゃん、良かったね、にししし」
「ふふっ、はい、レアーお嬢様、私もレアーお嬢様の事をお慕いしております」
え? 今なんと······。
「ほら席に戻って下さい、レアーお嬢様、このモリーナは実の妹です、その様な関係ではありません、私はレアーお嬢様の事をお慕いしているのですから」
「え、な、どうして、私はこんな傷だらけで、成長もしない体の持ち主ですよ、釣り合いませんわ」
「レアーちゃん、大丈夫よ、お兄ちゃん、ナイフと眼球用意してね」
モリーナ様はクロノさんからナイフを受け取り、クロノさんは私を抱きしめ動けなくします。
え、え、え!
見開いた眼孔にモリーナ様はナイフを突き入れ、グリッと目蓋が閉じないように指も差し入れ傷口を広げました。
「ぐっ」
耐えられる痛みではありますが何をなさるのですか!
次の瞬間ナイフの代わりに、ぐにゅんっと眼孔にぷるっとした何かが押し込まれました。
「ハイエンドヒール!」
モリーナ様の手から暖かい光が溢れ、身体中にあった痛みが、さーっと引いて行き、次は、服を全て脱がされ、至るところにある傷痕をえぐり取って行きます。
「ぐぅっ」
何か所えぐられたのかはきつく結んだ目には映らず、耐える事しか出来ません。
首筋は皮を剥ぎ取られる様な痛み、額も。
痛みが麻痺したのかと思うほど痛みは消え去り、暖かい物が流れ込んできています。
「お兄ちゃん、レアーちゃんの処女は?」
「それは大丈夫です、そちら方面の事はなにもされていません」
「うへぇ~、お兄ちゃん確認したの? エッチ」
「その様な事があればこの王都を燃やし尽くす自信があります」
「あはは、プシュケ師匠といいお兄ちゃんも大概だよね、王様、お父様が心配するのが分かるよ」
え? お父様が王様? クロノ殿下?
私が混乱していると、クロノさんがいつの間にか正面にいて、私の顎を持ち上げております。
え? 目の前! 目の前にクロノさんが!
「私とお付き合いして下さい、レアーお嬢様、いえ、レアー」
「は、はい」
そしてクロノさんは、“ちゅ” っと触れるだけの口付けをして下さいました。
私は、あまりの事に気を失ったそうです。
王都をいつの間にか出た私達は魔の森に向かい馬車を走らせています。
私はクロノさんの膝枕で寝ていた様です。
そして深い森の中のログハウスに到着しました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夏期のお休みを利用して、魔法を習い始めました。
数日後に教えて貰ったのですが、私にはモリーナ様と同じ大聖女の職業が成人の時に現れるそうで、まだ先になりますが無職から解放される事が分かりました。
クロノさんは、その事が父、母、ペルセフォネに知られないように、知られれば悪用されると分かっていたので私にすら隠していたとの事です。
「お師匠様、見ていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「なんだい、今度は熊でも友達になったのかい?」
「フリードリヒですか? お師匠様とお会いしていましたかしら?」
「いや、会っちゃいないよ、まったく、冗談のつもりが、······はぁぁ、それで何を見るんだい?」
お師匠様に、クロノがお買い物の時に街で配られていた物を見せる。
「なんだいこれは······。ふはっ! これはこれは」
「うふふ、私達の計画の勝利ですわ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
コンコンコン
『誰だ』
「しがない門番伯爵だ」
『入れ』
カチャ
「どうした門番伯爵、ぷふっ」
「笑うな、一応お前の印が押されてたから仕方無くやってやっただけだぞ、王様! 娘は毎日血だらけで帰ってくるし、奴が不能で助かったぜまったくよ」
「お嬢には悪い事をしたな、して、やっと掴んだのか? 証拠を」
「これだ、ケルド、ディース、妻のプロセルピナ、娘のペルセフォネ、暗殺ギルドグランドマスターのローグガオナー、その他バルニヤ公爵派の貴族の面々、決行日から作戦内容まで全て揃っている」
「ふむ、余罪も有り余るか、騎士は動いたか?」
「近衛騎士がケルド、副団長がディースの元に向かった、バルニヤ公爵家の別邸制圧は騎士団長が指揮を四か所同時に押さえる、衛兵達も動く、暗殺ギルドだ、今傭兵、冒険者ギルドにも伝令に走って貰った」
「うむ、今この時を以てバルニヤ公爵家はお取り潰し! ケルドは王位継承者の権利剥奪、魔道具を使い騎士達に伝えよ! 全ての貴族を十日間で集めよ、全貴族だ、それも魔道具を使って良いぞ! 賊どもは一人残らず捕らえるのだ!」
「はっ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ローグガオナー、学院長室に戻るぞ!」
「はっ! 伯爵令嬢は如何なさいますか?」
「泣き叫ぶばかりだからつまらんな、違う奴を見繕わなければな」
「そうでございますね、クラスの誰かを攫いますか?」
「平民なんぞ触るのも汚らわしい、貴族だ、伯爵以上の奴を見繕え!」
「はっ! ん? ケルド王子、あの方達は近衛騎士の?」
「うむ、王都に賊でも紛れ込んだか? くっくっく、のうローグガオナー」
「怖いですな、あははは」
「ケルド並びにローグガオナー」
「貴様! 呼び捨てとは不敬! ローグガオナー! 構わん切れ!」
「はっ! 不敬罪だ、悪く思うなよ」
「不敬罪にはならんな、先ほどケルド、貴様は王位継承権剥奪がなされた、貴様の父、ディースも爵位剥奪並びに新興バルニヤ公爵家は、お取り潰しになった」
「なっ! 誠か······」
「この夏期に謀反を犯す計画も全て我々の知るところだ、今頃ディースは副近衛騎士長が、今日一日中に別邸の奴らも騎士団に制圧されるだろう、抜け穴も潰しに行かせた」
「バ、バカな後少しであったはずが」
「貴様もだローグガオナー、ギルド本部は今頃衛兵並びに傭兵や冒険者が取り囲んでいるはずだ、こちらも抜け穴を潰してな、よし、捕らえよ!」
「「
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「近衛騎士の副団長が何の様だね、私は忙しいのだか」
「ディース、並びにプロセルピナ、ペルセフォネの捕縛に来た謀反の計画、脱税、密輸出入、不正奴隷取り扱い、麻薬、数十名の使用人殺害、他、余罪が判明しておる」
「なぜだ! なぜその事が! もうすぐ王になるはずだったのだぞ!」
「貴様達がなるのはな、ディース、貴様は処刑、妻と娘は良くて犯罪奴隷だな、捕らえよ!」
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◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「王子が王位継承権剥奪に辺境に幽閉か!」
「表向きはそうですの、その下の記事も読んでくださいまし」
「表向き? まあ良い、ふむ、バルニヤ公爵家のお取り潰し!! レアーの居た家ではないか!」
「はい、これで私は完全に自由の身となりました、ですがそれは表向き、父、母、妹、ケルドは秘密裏に処刑されます」
「あはははははっ、苦労していたからねぇ、クロノに頼んで今日は少し豪勢な食事にしてもらおうかね」
「はい、クロノ! 聴いていましたか!」
駆け出すレアー、首筋の火傷がきれいに無くなり、晒されたおでこに傷は見当たらず、光の宿る二つの瞳に映るのは、やれやれといった顔のクロノであった。
そして、クロノに抱きつくのであった。
『婚約破棄』『廃嫡』『追放』されたい公爵令嬢はほくそ笑む~私の想いは届くのでしょうか、この狂おしい想いをあなたに~ いな@ @iiinnnaaa
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