第5話 『黛 あやの』ちゃん独占インタビュー

 かつて一世を風靡したグラビアクイーン『MARI』がひと目惚れして即座にスカウトした逸材『あやのん』こと『まゆずみ あやの』ちゃん。本誌初登場にして圧倒的な反響を呼び、その後も各社でスケジュールの奪い合いが激化する一方なグラビア担当泣かせの彼女。

 ついにテレビドラマへの出演も決定して、現在最もノリに乗っているグラビアアイドルと言えば誰もがその名を口にする『あやのん』が久々に本誌に顔を出してくれました。

 デビューしてから駆け抜けた一年と、これからの未来に思いを馳せた独占インタビューです!


『あやの』

 お久しぶりです。

 あの……この記事、ちょっと煽りすぎじゃないですか?


――いきなり何を言い出すんですか(笑)


『あやの』

 だって、私のスケジュールって割とスカスカですし。

 駆け抜けるって言われても、全然前に進んでる実感なんてありませんし。


――いやいや、聞いてる話と全然違うし。どこの担当も首を長くして『あやのん』を待ってるから。


『あやの』

 ま、まぁ……社交辞令って奴ですよね。

 え、何でそんな顔するんですか?

 私、変なこと言いました?


――『あやのん』はもう少し現実見た方がいいと思う。今日だって、何でわざわざ来てくれたのか、編集長がマジで首傾げてる。言っちゃなんだけどウチってマイナー雑誌だし、ギャラもたいして出せないし。大事な時期なんだから、もっと仕事選んだ方がいいよ。


『あやの』

 何でって言われても……私を初めて使ってくれたじゃないですか。あの時にグラビア載せてもらえてなかったら、今の私はないと思うんです。お礼って言うと恩着せがましいですけど、そういう縁って大切だなって。


――え、それだけの理由?


『あやの』

 変ですか?

 デビューなんて形だけで仕事がなくて途方に暮れてた頃だったから、あの時は本当に嬉しかったんです。

 仕事が貰えないって毎日物凄く凹んでたんですよね。


――変じゃないけど……あんなことで恩を感じてたら、そのうち仕事で首が回らなくなるんじゃないかな。これからきっとドラマとかバラエティとか色々引っ張りだこだろうし。


『あやの』

 あんなことって……


――ま、その辺の食い違いは置いといて……いやぁ、それにしてもホント成長したよね。


『あやの』

 どこ見て言ってるんですか(笑)


――いや、まぁ……胸?


『あやの』

 別に怒りませんけどね。

 でも……胸って勝手に大きくなったから、思い入れがないって言うか。


――それ、他の人に言ったら喧嘩になるから。


『あやの』

 ええ~(驚)

 私としてはむしろお腹とか脚とかを見てほしいですね。

 こっちは自分で努力してきれいに見えるように頑張ってるので。


――え、見せてくれるの?


『あやの』

 グラビアで見てください(笑)


――ほんと、成長したね。初めてのときとかガチガチだったのに。


『あやの』

 あの時はスタッフの皆さんにもご迷惑をおかけしました。

 まだまだ勉強中ですけど、少しはマシになったかなって思います。


――『あやのん』は現場でも評判いいんだよね。麻里さん(『あやのん』のマネージャー。スカウトした本人でもあり元グラビアクイーン『MARI』)に鍛えられてるのかな。


『あやの』

 鍛えられてるって言うか……毎日が教わることばっかりって感じです。

『自分だけで何でもできると思うな』って、よく叱られます。

『一緒に仕事してくれる方々に感謝することを忘れるな。みんなで幸せになることを一番に考えなさい』って。

 確かにそのとおりだろうなって思うんですけど……私、チヤホヤされると調子に乗っちゃうところはありますから、麻里さんが言ってくれるのは凄くありがたいです。


――麻里さんからは『何も言わなくても元から謙虚だった。卑屈なところがあるくらい』って聞いたけど。話盛ってない?


『あやの』

 ああ~、卑屈って言うのはあるかもしれません。

 謙虚も過ぎれば嫌味になるから、自分のポジションは自覚しろとも言われました。

 でも、自分のことって自分でわからないんですよ。鏡見るとか、そう言う話じゃなくて。


――わかってたらどうしてた?


『あやの』

 わかってたらですか?

 う~ん、もっと早くこの業界に飛び込んでたかも。

 スカウトされなかったら絶対に近寄らなかったと思いますし。

 芸能界なんて一生縁がない世界だとばかり……今でも、ずっと夢を見てるんじゃないかって。


――え~、デビューは高1からだよね。絶対中学とかでも目立ってたでしょ。ちょっとくらい考えたりはしなかったの?


『あやの』

 全然考えてませんでした。

 私……ずっとガリ勉系だったからテレビとか雑誌とかも見なかったし。

 学校で目立ってたって言うか、当時からこの胸は無駄に自己主張してましたね(笑)


――それはわかる(笑)。今の『あやのん』の見た目からは想像つかないけど、真面目なところとかはガリ勉系って言われて『なるほど』って思った。


『あやの』

 ま、中学の頃は自分の胸が大っ嫌いでしたけど。

 捨てられるものなら、捨ててしまいたいって。

 ほんと嫌だったなぁ。

 

――それを捨てるなんてとんでもない!


『あやの』

 だって男子の目が怖かったんです。

 男子って言うかずっと年上の男の人もジロジロ見てくるし。

 別に私は何も悪いことしてないのに『何でこんな目に合わなきゃならないの』って。


――全世界の男に代わって謝ります。


『あやの』

 今はもう別に気にしてませんけど。

 これのおかげで仕事が貰えてるようなものですから。

 (軽くブラの紐に指をひっかけて揺らす)


――お腹とか脚とかではなく?


『あやの』

 どこを見られてるかなんて、わかってますから。

 あ、別に見るなって言ってませんよ。

 もっと見てください。それが私の未来に繋がりますから!


――じゃあ遠慮なく……あ痛(編集長にどつかれた)


『あやの』

 ふふ


――笑顔も良くなったなぁ。そう、テレビドラマにも出るんだよね。


『あやの』

 何度聞いても本人が一番信じてないと言う(笑)

 お話は進んでるんですけど、ちゃんとできるのかどうか……

 こんなこと言ったらいけないと思うんですが、他の出演者の方々が凄すぎて『私、邪魔になっちゃわない?』って戦々恐々で。


――そんなことないない。俺らとしては『あやのん』がどんどん羽ばたいていくのが嬉しいけど……グラビアの仕事が減るのは悲しい。それが本音なんだよね。


『あやの』

 え?

 グラビアの仕事はやめませんよ。


――ほんと?


『あやの』

 はい。

 少なくとも、必要とされなくなるまでは。

 ……何でそんな話がいきなり出てくるんですか?


――必要とされないなんて、そんな日は永遠に来ないと思う。でも、いいの?


『あやの』

 いいも悪いも。

 もともとグラビアアイドルとして見込まれてデビューさせてもらってますし。

 それに……私、この仕事って好きなんですよね。


――それは朗報。全世界の『あやのん』ファン大歓喜なんだけど……身も蓋もないこと言うと、こういう仕事を嫌がる女の子って割といると思うんだけど。


『あやの』

 いますね。

 別にそういう人のことをどうこう言うつもりはありません。

 個人の趣味の領域だと思います。どうこう言われたくもないですけど。

 私は……グラビアアイドルって、徹底的に自分と向き合う仕事だと思っています。水着で身体を見せてなんぼの仕事なので暴飲暴食なんて以ての外だし、栄養関係も勉強しないといけないし。オシャレだって運動だって頑張らないとだし。でも、そうやって自分をきれいに磨き上げるのって楽しいし、それが成果になると嬉しい。

 実際いい写真を撮ってもらったらテンション上がりますよ。

 それで『もっと頑張ろう』って思えます。

 もちろん私自身の問題だけじゃなくって、スタイリストさんやヘアメイクさん、カメラマンさん、ほかにもたくさんの人に支えられているのは言うまでもないですけど。

 そして何よりも私を応援してくれるファンの皆さん。


――おお、熱弁。


『あやの』

 テレビドラマの仕事のために、現在突貫工事でレッスン中なんですけど……『自分以外の誰かになれる』と言うのが俳優の面白さだと感じました。

 グラビアアイドルは『ひたすら自分を突き詰める』ところに面白さを感じます。


――この真顔、みんなに見せたい。


『あやの』

 それは勘弁してください。

 とにかく、グラビアアイドル『黛 あやの』は、これからも頑張りますので


――身体の話ばっかりしてるけど、顔もメチャクチャ可愛いよね。


『あやの』

 いきなりナンパっぽくなりましたね(笑)


――ナンパされたりってする?


『あやの』

 まぁ……なくはない、かな。

 断りますけど。


――学校では?


『あやの』

 学校ですか?

 そっちは全然ですね。


――何でそうなるの(笑)。女子高なの?


『あやの』

 普通に共学ですよ。

 あまり顔を出さないから、認知されてないのかも。


――それはないから。『あやのん』はもう少し自分のことちゃんと考えた方がいい。マジで。


『あやの』

 心配かけます。


――いや、ホント心配になってきたよ。ちなみに彼氏にするならどんな男がいい?


『あやの』

 え、彼氏ですか?

 う~ん(マネージャーの方を見る)

 そうですね……優しい人。


――ベタだ。何も言ってないのと同じだよ。もう少し世の男たちにアドバイスを!


『あやの』

 そんなこと言われても……あまり顔の良し悪しとかは気にならないかな?

 優しくて、傍で寄り添ってくれて、私を受け入れてくれる人。

 お互いを尊重し合えるような関係が理想ですね。


――男は顔じゃない?


『あやの』

 見た目がいいに越したことはないと思います。

 造形そのものよりも、身だしなみに気を配れる意識の方が重要かな、と。


――『あやのん』のお眼鏡にかなう男は、いったいどんな奴なんだろう。これは気になる。


『あやの』

 ……と言いつつ、彼氏できたとか言ったらスキャンダルですよね。


――まぁ、そう言う業界だからね。


『あやの』

 だったら当分彼氏なんていらない、かな。


――それはそれで寂しくない?


『あやの』

 自分でもちょっとどうかと思わなくはないです(笑)

 どうにかなりませんかね?


――ま、僕を含めてファンのみんなが恋人ってことでひとつ。


『あやの』

 なんかえっちいですね、それ。


――何を想像してるの(笑)

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