12周目形本2話「V県仮想市の孤独記者」
目が覚めると、見慣れた天井だった。デジタル時計が目に入った。
「十八時十九分」
時間が進んでいる。当たり前のようなことが、こんなにも嬉しいなんて。
VHPにはもう誰も居ない。これでよかったのだろうか。
きっとこれでよかったのだろう。
起きたらノートを開くのが癖になっていた。そしてついさっきのことを書く。忘れないうちにできるだけ素早く詳細に書く。
なぜ小説を書こうと思ったのかわかった。それが私にとっての「孤独を誰かと分け合うこと」だったからだ。
ある程度書き終えて、時計を見ると「十八時二十分」だった。明らかに時間の進みがおかしいが、進んでいるだけよかった。
ベッドに横になろうと思ったが、目が冴えていた。ノートをパラパラと読んでいると、誤字脱字が目立つ。話がつながっていないところもある。
時間はある。できる限りやり遂げたい。
VHPを閉じて、パソコンに書き写しながら推敲を始めた。今までのことが懐かしく思える。
推敲の途中でデータが消えないように保存しようとした。そのとき、そういえばタイトルを決めていなかったことに気がついた。
しばらく悩んで、最初にぱっと浮かんだものを仮につけることにした。
『V県仮想市の孤独記者』として、作業を続けた。
……。
いつの間にか寝てしまっていた。
起きてすぐに、いつもと違うものが流れ込んでくる感覚に気がついた。
薄暗いがたしかにある光。カラスの鳴き声、道路を走る自動車、誰かの話す声。
「六時十八分」
夜が明けた。
窓を開けて、流れ込んでくる風や音を受けとめた。
長い長い孤独が明けた。
V県仮想市の孤独記者-繰り返す世界で小説を書く- されどなお @saredonao
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