第29話 ランクアップとお祝いと
その後、Eランクへの試験は無事に完了した。
運よく近くに5匹のコボルトのグループがあり、範囲魔法で片付いた。
今のところ出会ったモンスターで苦戦はなかったな。
昼頃にクエストを終えることができたので、まだ街に戻ったのは明るい時間帯だった。
「あ、ミナガワさん!もしかしてもう終わったんですか?」
ちょうどノーラさんが窓口にいたので報告に向かうと、向こうから声を掛けてくれた。
「ええ、運よくモンスターがまとまってくれていたので」
「それじゃあランクアップできますね!
今からミナガワさんはEランクです、おめでとうございます!」
嬉しいですねー、今夜はご馳走ですかー?とか、僕を弟を見る姉のように語りかけてくる目の前のノーラさんはとても嬉しそうだ。
ドシン。
そんな音が聞こえて来そうなほどにたわわな胸がギルドの机に乗っかる。
そのあまりに無防備な姿に、目線をどこに向けるといいのか困る。
初めて会った時からフランクに対応をしてくれていたが、この一月間ほぼ毎日会うことで、随分と仲良くなったと感じる。
それが自意識過剰だと恥ずかしいのだが・・・
他の冒険者との対応の差を目の当たりにした時は驚いたものだった。事務的というのか、笑みは浮かべているものの踏み込めない明らかな壁を感じる。
最近ではクエストのアドバイスも聞かなくても話してくれるので、ついつい甘えてしまうことが多くなってきた。
自分に姉が居たらこんな感じなのかもしれない。
働き詰めの毎日だったが、ランクも一つ上がったことだし今日の残りと明日はのんびりと過ごすかな。
そう思い立って、「次は明後日に来ますね」と告げてギルドから出た。
辺りはまだまだ明るい。
特に消耗するアイテムもなかったので、買い物の必要もないかな。
目的も無く散歩をしていると、フランさんのお店にたどり着いた。
僕に気づいてくれたようで、控えめだが手を振ってくれている。
「こんにちはー」
全体をゆるく巻いた、フレンチガーリーなセミロング。淡いピンクの髪色で、服装も相まってとても女性らしく可愛らしい。
「こんにちは」
初の報酬を受け取ってから、定期的にこの花屋さんに通っている。花を選ぶこともあるが、本命は奥にある喫茶コーナーだ。
ユリアナさん、メアリーさんに花束のプレゼントを贈った日の後、お礼を言いに訪れた際に案内してくれたんだ。
それからというもの、ここ最近は高い頻度で通っていた。
せっかくだし、今日もたどり着いたからにはお茶をいただくとしよう。
季節のハーブティーをフランさん本人が選定し淹れてくれる。
初めて来た日に感じたが、やはり時間がスローになって心から癒しを感じる瞬間だ。幸い今は、この花屋さんを訪れる人はいないので、フランさんと一緒にお茶を飲みながら話をする。
そうそう、ここには紹介してくれた冒険者ギルドのノーラさんもやってくる。といっても彼女がギルドの休みの時に限るのだが。
フランさんとは色んなことを話す。お姉さん気質なのか、とても聞き上手でついついこちらが話し過ぎてしまうことが多い。
ちょうどこちらが話終わったタイミングで感想をくれたり、質問を投げかけてくれる。絶えない笑みは、クエストでの凝り固まった緊張感を取っ払ってくれるような気持ちになる。
僕はあまりお酒が飲めないから、こうしてお茶を飲むのが合っていると思う。
あと小一時間程で日が暮れそうになったタイミングで席を立つ。
家で帰りを待つ二人に、今日いただいたオリジナルブレンドのハーブティーも幾つか用意してもらって帰るとする。
まだギリギリ明るいがもう少しで日が落ちる、そんな時間に屋敷に辿り着いた。今では馬の扱いにだいぶ慣れてきて、すっかりパートナーである。
そのパートナーのケアを充分に行ってから、屋敷に入る。
正面の少し重い扉を開くと、ユリアナさん、メアリーさんが玄関で揃って迎えてくれた。出会ったばかりは悲壮感が漂っていたこの屋敷はもうなく、屋敷全体が随分と明るくなったように感じる。
「おかえりなさい、カイちゃん」
「おかえりなさいませ、ぼっちゃま」
二人に出迎えてもらって、僕は幸せを感じる。
事前にもしかしたら一日では終わらないことを伝えていたから、このように迎えてくれることを予想していなかったんだ。
つい嬉しくなってすぐに報告をする。
「ただいま二人とも。そうそう、無事にランクアップできたんだ。」
「あら、それはおめでとう。今日はご馳走にしますから、お祝いにしましょうか」
そう言ったユリアナさん。メアリーさんも横で大きく頷いている。
「ありがとう。って言ってもまだEランクなんだけどね。
あ、そうそう。街のお花屋さんでハーブティーを買ったんだ。すごく素敵な香りだったから二人にも飲んで欲しいんだ。」
「嬉しいわ。じゃあ早速今夜にでもいただこうかしら」
そんな会話を続けながら屋敷に入っていく。
ユリアナさんとは本当の親子だけど、僕にはその記憶すらなく、何だったら前の世界の、別の両親の記憶が心に存在する。
だけど目の前の二人は意に介していないように温かく迎え入れてくれている。
「わっ!すごいご馳走だね!」
きっと僕の帰りを予測していたんだろう。いうもよりも豪華な料理がすぐに出てきた。
また明日からも頑張ろう。
何だか無限に力が湧くような、屋敷に帰るといつもそう感じるんだ。
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