第22話 出会いと小さな要塞と

ギルドマスターとの話が終わり、ギルドを後にした。

実際の登録は2日ほど待ってほしいとのことで、僕たちは屋敷まで帰ったのである。

次に向かうときは、実際に冒険者としての登録を行うこととなる。

通常は即日交付が基本と聞いたが、事情が事情なだけに時間を要するらしい。


ちなみに、もう一つの大規模なギルドである魔法士ギルドへの登録は後回しにするつもりだ。

単純に手続きが面倒くさいといった理由であるが。


冒険者ギルドでそれなりに活躍ができれば、魔法ギルドへの登録は推薦状により面倒臭い手続きをすっ飛ばせるとのことで、今は冒険者としての活動だけ。

公的な身分証明書は冒険者ギルドが発行してくれるし、その身分証を持ってさえすれば何も問題ないそうだ。


正直、政治的な駆け引きは冒険者ギルドで十分といったところ。

母の纏う圧倒的強者を彷彿とさせる姿は隣にいて心臓に悪いレベルだったよ・・・。


結果的に僕の出生から身分・名前等は隠蔽して発行をしてもらえるということで、万々歳だ。

魔法士ギルドには期を見て登録しようとなったわけだ。



さて、ギルドの準備が整うまでは、これまでと変わらず鍛錬や家事の手伝いに邁進した。

待ち遠しい時間も楽しめて、ついにその日がやってきた。


冒険者として初めの一日。

赴いたのは僕一人だ。

そういえば一人で街に出るのは初めてだな。

馬の扱いについても学んで、辿々しいが一通りの操縦は問題ない。まだパートナーとしては浅いが屋敷の馬に乗ってギルドへ向かう。


天気は快晴。

風を切って颯爽と走るのが心地いい。

別荘がある地は人里離れており、周りには何もない。目的地までは少し舗装された道を馬で走っていく。


腿周りがズキズキと痛み出した頃、目的地に辿り着いた。

専門の職員に馬を任せ、少し重たい木製のドアを開ける。


相変わらずガヤガヤとしたギルド。

今日で二回目だがやはり人の多さに圧倒されてしまう。


奥には飲食スペースがあるのか、人混みが苦手な人やベテランの冒険者はそこでくつろぎ、目の前の人混みが収まるのを待っているのだろう。

大きな掲示板の前では、パーティを組んでいるのか、同じ素材を活用した装備の男女が相談しながらクエストを選んでいる。

僕はつい、ゲームや漫画などで見ていた光景に感動し足を止めてしまっていた。


ドンッ

不意に後ろから衝撃を受けた。なかなかの勢いでぶつかったので、前のめりになったがなんとか耐えた。


「・・・痛い」


振り返るとそこには小さな要塞。


声が高いから女性か?

175㎝程度はある僕よりも背は随分と低い。全身を覆う鋼鉄の装備。頭も含めて途轍もない硬度であろう鎧を纏っている。


フルプレートアーマー。

超重量級の装備を纏った冒険者か。顔が見えない為相手の表情も窺えない。


「ごめんなさい!」

僕は素直に謝った。人の往来が多いギルドの入り口付近でついボサッと突っ立っているのが悪かった。


「・・・いい。君は、新人?」

まさに要塞のような人物は、無機質な声色で僕に問いかけた。


「はい、今日登録に来たんです」


「そう。じゃあ頑張って」


そう言って、ガシャンガシャンと小うるさい音を鳴らしながら揚々とギルドの奥へ進んでいく。

掲示板を眺めたかと思えば列に並び、手続きを始めた。

ソロなのだろうか、仲間らしい人たちは見当たらない。


さて、自分の要件を済まそう。

ギルド職員と思われる人に声を掛けて、登録の手続きを始める。

登録の窓口はカウンターの一番奥だ。

クエストなど普段頻繁に行われる手続きよりも詳細な案内が必要なブースは奥にまとまっているとのことで、その良心的な設計に安心する。

まばらだが、同じように登録に訪れる人も数人ほど近くにいるようだ。


僕は空いている受付に向かった。

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