第16話 家庭教師はお母様?

これからの方針を話し合った翌日の朝、僕は今、屋敷の裏庭にて母と向き合っている。


「これからの家庭教師は私です」と言ったのはまさかのユリアナさんで、戸惑いが隠せない。

冗談か・・・?と思ったが、生活魔法など、基礎的な魔法程度なら母でも問題無さそうだと思い、お願いしますと頭を下げた。


「ふふ、私が指導役で意外に思いましたか?

これでも学生の頃は優秀な方だったのですよ。随分前のことですが」


初めて会ったあの憔悴し切った姿とは変わって、少し血色の良くなった顔、改めて入念に手入れをしたのか幾分か綺麗になった黒髪をしたユリアナさんは元々の美しい顔をしていたこともあってとても魅力的に見える。

動きやすい服装で、手には杖を携えている。


「まずは魔法を実践してみますね」


フレイム・インパクト――

そう唱えた杖の先、距離にして20メートル程度先にある大岩に向かって、恐らくは火の攻撃魔法を放った。


時間にして数秒後・・・


ドゴオオッッ!!!!

尋常じゃない爆発音と、大岩が破裂したことによる破片が一帯を襲う。

ユリアナさんは想定内だったのか、僕たちと屋敷へ被害が向かないように全体にバリアーのような魔法を張ってくれていたようだ。


何にせよあまりの光景と衝撃に空いた口が塞がらない。

炎が爆心地でゴウゴウと燃え盛っている。何なら地面まで溶けてきているようにも見える。

離れているとはいえ、震えが止まらない。


「どうですか?これが魔法ですよ」

頑張って覚えていきましょうね。と、音符でも見えそうな程ノリノリで、キラキラした笑顔で僕にウインクした。



と、ここで屋敷の中からメアリーさんが慌てた様子で出てきた。

走って息も絶え絶えの中、ユリアナさんに向かって叫んでいる。


「お、奥様!今の爆発音は奥様ですねっ!」

ゼエゼエと膝に手を付いた状態で怒鳴っている。


「そうよ、今カイちゃんに魔法の修練のために見本を見せたのよ」

ニコリと穏やかで柔らかい笑みを浮かべたままユリアナさんは語りかける。


「見本としては威力が強すぎます!

抑えて放ったとは察しますが、対高脅威度モンスターへの超級魔法じゃないですか!」


「いや、あの・・・それは」


「奥様、いいですか?いきなりこのような魔法はやりすぎです!

どうか初級魔法からぼっちゃまにお教えくださいませ」


返答に詰まったユリアナさんにも容赦なく、物凄い剣幕でメアリーさんがまくし立てる。

少しシュンとしたユリアナさんが申し訳なさそうに「ごめんなさい」と頭を下げて謝った。


メアリーさんの怒りは凄まじく、見ていて普段とのギャップがすごい。

未だ燃え盛る大地をボーっと眺めながらどうでも良いことを考える。


「ぼっちゃま、お気を確かに」


不意に手を握られ、我に返った。

僕が思い描く魔法のイメージと相違ないが、あまりにも規模が大きくて冷や汗が止まらない。

轟音・爆風・熱波・・・リアルで感じる魔法はただただ怖かった。

物語の中で魔法を使用する人たちは、あっけらかんと魔法を連発することが多いが、いざ自分が目の前で体験すると、気が引けてしまいそうになった。


「カイちゃん、大丈夫?」

少し不安気な目でユリアナさんが僕に問いかける。

しまった。これから頑張って力を付けると決意したのに、気圧されてしまっていた。

だが・・・


「大丈夫です。想像以上に迫力があって少し驚きましたが、これから精一杯努力していこうと思います。ご指導をよろしくお願いします。」


目の前のユリアナさんは胸を張って満足げだ。

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