第15話 懸案と最善と

次に話があったのは僕ことカイ・ローゼンダールの生存についてだ。

これは薄々気が付いていたことだが、やはり不味いそうだ。


公には事故で意識を失い、かろうじて一命は取り留めたが目を覚ます事はもうないと触れ回っていたようで、逆に生きてピンピンしていると世間と矛盾が生じる。


直接人体に干渉する類の身体強化の術式は禁術のようで、箝口令が敷かれ、直接的な原因は伏せられているそう。

となれば、ひとまず僕が生きていることを悟られないように行動することも必要かも知れないな。

現当主といえば弟であるレイの育成に夢中だろうし、第二夫人が躍起になって当主に据えようとしている。

そんな最中に僕が生きていると触れ回っているとすれば、大ごとになってしまいそうだ。最悪僕たちの命に関わるかも知れない。

政争に余念がない当主のことだ、僕の生存を喜ばない事は目に見えている。


「あなたにとって辛い話だと思いますが、どうか気を病まないでください」

辛そうなユリアナさんが言う。


「いえ、僕のことなら大丈夫です。

個人的に思うところはないこともないですが、早々に力を付けて、関わり自体を断ちたいという想いがありますね・・・。

幸いにもこの屋敷への干渉は、今の状況を聞くにほとんどないと思われます。時が来るまでこちらからも干渉せずに力を身に付けて、自立が出来る様になった暁には家を出て、違う土地で暮らすということが望ましいかと思います」


ユリアナさんにとっては夫である現当主と離縁することに拒否感はあるのだろうか。

僕個人としては、いつ排除されるかもわからないようなまま怯えて暮らし続けることはしたくない。

まだすぐに排除されるようなことにはならないだろうが、特に次期当主候補陣営に察知されると危うくなるのではと考える。


「ええ、私の方も異論はありません」

覚悟を決めたようなユリアナさんの表情に、こちらもつい背筋が伸びる。


「私はもうカイちゃんが辛い状況に陥るところは見たくありません。

できることなら私のこの手で支えてあげたいのです。

これからの伯爵家の展望には我々はいないも同然だと思っております。

簡単な未来ではないと思いますが、この伯爵家から離れることが最善なのだと確信しています。」


両者の意見は一致した。メアリーさんは僕たちの意見に賛同してくれて、ついてきてくれる事を表明してくれた。


ここに、一つの道ができた。

現時点の最有力としては、伯爵家との関係を断ち、ユリアナさんのご実家であるクラム家に向かうことだ。それまでに自衛ができるように力を付けることと、金銭的にも困ることがないように対策を練ることだ。


ちなみに、クラム家の爵位は子爵家となる。主に軍人を輩出することが多い家柄で、伯爵家と比べると格は大きく落ちるが由緒正しく歴史のある貴族なのだと聞いた。

戦争は久しく起こっていないことから、軍人系の派閥は総じて少し肩身が狭いようで、金銭的にもゆとりはないと聞く。


何にせよ、これからの大きな目標はできた。

そのために明日から修練を重ねて、力を付けていくことを決心する。

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