第14話 現状と選択と
これからの方針を決めましょう。
ふんわりとした議題だ。カイとして過ごすにあたり、クリアしなければいけない懸案が多々あるので、それらを早々に潰したいという共通認識だな。
朝食を取り終え、3人が広めのテーブルがある書斎のような部屋に集まった。定期的に掃除されていたようで、ホコリ一つだってない。行き届いた仕事ぶりに改めて感心する。
さて、ユリアナさんがこれからの方針について話始める。
「まずは私たちの現状についてお話しします。」
はっきり言って良くはありませんね。
そう言ったユリアナさんは少し紅茶を口にする。
少し寂しそうな表情で静寂が部屋を包み込む。
従者であるメアリーさんも何か言いたげな表情で悔しそうに黙っている。
まあ、考えるとそうか。
自分も目の前に置かれているカップを手に取り、紅茶を一口飲む。
少し乾いた喉を潤すと、心に落ち着きが生まれた。
続けてユリアナさんが話を続ける。
やはり当主であるグランヴェルはこちらへの関心はすでに無くしているようで、今は妻であるユリアナさんを含めて気にかけるようなことは全くしていない。
屋敷から届く便りは無い状態が続いており、すでに援助の資金なども一年以上前から届いていない。
今は生活していくのが精一杯といったところで、いよいよどうするかという最中、カイ・ローゼンダールこと僕が目覚めた状況である。
目の前の二人を幸せにしたい。そんな思いに至ったのはつい前日の話で、僕なりに考えてきたことを口にする。
「あの、僕はこの世界のことは何も知らず、出来ることは少ないかも知れません。ただ、自分なりに貢献できることをして、ユリアナさんやメアリーさんにご恩を返したいと思っています。
具体的には、早くこの世界に順応すること、そして知識・力を身に付け仕事をし、皆の生活を豊かにしたいと思います。」
確固たる思いは二人をわずかにでも勇気づけられただろうか。
しばらくは頼りきりになるかと思うが、自分の手の届く範囲は幸せにしたいと思っている。
「あなたの気持ち、本当に嬉しいわ。これから頼りにしてるわね。
ただ、あまり背負い込まずにいて欲しいの。困ったことがあったら私たちに言ってちょうだいね。」
ユリアナさんが僕に優しく語りかけるように言った隣でメアリーさんが大きく頷いた。
本当に二人は優しい。
決して生活にゆとりがある状況ではない中、僕を本当に気にかけてくれているようで、安心する。
話は変わるが、この屋敷は当主であるグランヴェルから充てがわれたものだが、元はというと今はローゼンダール領の中枢に店舗を構える豪商が建てたもののようで、カイ養生の為にローゼンダール家がこの家ごと買い取ったようだ。
尤も、領内でも都市部から少し遠方に位置するこの邸宅を手放し販路拡大を狙っていたその豪商と格安で買い取りたい伯爵家の思惑が一致していたそうな。
何にせよありがたく使わせてもらうことができているのだ。
父である当主に少し感謝をすることにする。
勝手な理由でカイくんを殺したような父は受け入れ難いのだが・・・。
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