第12話 料理と魔法と
食事は3人全員で作ることになった。
母であるユリアナさんも、従者であるメアリーさんも。
ただ待つだけだと恐縮するので一緒に手伝いと申し出た。幸いにも前の世界と同じような調理器具に食器が並ぶキッチンだったので、微力ながらサポートする。
といっても幸せそうな二人を眺めるだけといった感じだ。
なんてない調理の工程が進むが、途中から僕には驚きの連続だった。
着火には火の魔法を活用し、井戸から汲み上げた水には浄化の魔法をかけるといった日本では有り得ない光景にただ驚いた。
この世界には魔法が日常的に使われている——。
これは先程話をした時に聞いた。これほどに普及しているとは思わなかったというか、もっと高度な技術だと思っていた。
女性二人で住み続けるには容易でない労力が必要だろうと推察していたが、日常生活が楽になるような補助呪文が大いに役立つようで、この屋敷の空間は大変清潔かつ快適に維持されているようだ。
きっと僕にも魔法が扱えるはずだ。
そんなことを真剣に期待しワクワクしている自分がいる。
立ちふさがる大きな敵対組織、ともに助け合いどんな困難を乗り越えていける仲間たち、未知なるお宝や、美女との出会いだってあるかも――
溢れんばかりの妄想を続ける僕に、目の前の二人はやや呆れていた。
途中から料理の手伝いはせずに空想にふけっていたが、いい匂いがあたりに漂ってきたことで正気に戻る。
一言謝りつつ、手伝いに戻った。
既に料理は粗方完成されていて、後は仕上げを待つだけ。
ゴロゴロとたくさん具材の入った野菜のスープに焼き立てのパン、メインは肉料理で、香辛料のいい香りがする。
同じテーブルに三人でつき、食事を始める。
僕にとってはあらゆることが新鮮に感じるが、不思議と居心地は悪くない。
幸せそうに微笑むユリアナさんと、メアリーさんが僕を見つめる。
「おいしい!…です」
味付け自体はシンプルに見えるスープを口に入れると、たっぷり入った野菜の複雑な味に驚き思わず声が出た。
先程を口に入れた時にも思ったが、味付けがとても上手で関心してしまう。
嬉しそうな二人を横目にメインの肉料理やパンを頬張る。お腹はすいていたようで、用意してもらった少し多めの食事を全て平らげてしまった。
前の世界の僕は、一人暮らしだったので、当然家事は一人でやっていた。
大学とバイト先の行き来をしているとご飯を作ることがつい面倒で、外食か出来合いのものを買って食べることが多かった。
ほぼ義務的に食事をしていただけだった僕に、二人の愛情こもった料理に衝撃を受けたのだった。
ますます二人に対して何か返したい。そう強く思う。
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