第9話 決意と空腹と
不思議な感じだった。
僕は目の前の二人には出会ったばかりだが、二人から向けられる、その全てを許してくれるかのような慈愛に満ちた温かな視線は、僕を容易に安心しても良いんだ、そのままの自分でいて良いんだと感じられ、多幸感で満ち溢れた。
もちろん、皆川海としても同じような愛情を向けられたことがあった。
少々過保護が過ぎていたような両親に、何度もたくさんの愛を貰っていたと思う。
もう会えず、これまでの愛を返す術はもうないのかも知れないが・・・。
しかし、受けてきた愛情は褪せることなくこの心にしかと刻み、これからはカイとして生きていくことになる。
まだ完全に割り切るには至らないが、無理せずに自分のペースで進んでいきたいと思う。
一人じゃない。
事情を知るユリアナさんとメアリーさんが側にいてくれる。この人たちが味方でいてくれることが心強い。
流し切った最後の涙を袖で拭う。
改めて目の前の二人を見ると、忘れていた羞恥心が戻ってきた。
「す、すいません!」
慌てて二人から離れる。
恥ずかしくて、とにかく顔が熱い。
少し名残惜しいような顔をしたユリアナさんとメアリーさんだったが、微笑み穏やかな顔に戻る。
これまでのカイくんは、二人とどう接していたのかはわからない。だが今の僕なりに二人を幸せにしてあげたい。
その気持ちを忘れずに持って、これからを過ごしていきたいな。
「二人にはこれからいっぱい迷惑を掛けるかも知れないけど・・・
改めまして、これからもよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「よろしくお願いします、ぼっちゃま」
何年振りかの涙はとてもスッキリした。
こっぴどく失恋してからというもの、連続して起こった出来事により頭の中はごちゃごちゃになっていたが、今では落ち着いており今は僅かな希望が確かに芽生えいる。
涙でぐちゃぐちゃになりながらも、どこか晴れやかな顔をした好青年がそこにいた。
結局、1時間から2時間ほど、3人で話し合った。
この日のことは決して忘れない
メアリーさんのお腹がぐーっと鳴ったところで、一旦切り上げて皆で食事を取ることにしたのだった。
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