第3話 従者は主人を見付ける

離れたところから、部屋に向かって足音が近づいてきた。

徐々に大きくなる足音は、ドア付近で止み、コンコンと、2度ノックが聞こえた。


「失礼します」


と、声が掛かったと同時に中にいる僕の返事も待たずドアが開かれた。

入ってきたのはメイド服(であろう)を身に纏った僕と同い年くらいの女性だった。クリッとした青い大きな瞳、鼻先は尖っていて美しく真っ直ぐに伸びている。


日本人にはあまり居ないタイプの容姿で、洋風で綺麗な顔立ちだ。

黒に近いグレー系の服に白のエプロンを付け、金色の髪の毛は見えないようにキャップに詰めてある。


掃除をしに来たのであろうか、手には掃除用具を持っている。慣れた身のこなしで部屋の中に入る。


僕はその美人をぼーっと眺めていると、目が合った。そこで彼女は、初めて僕の起き上がった状態を認識したようだ。

僕は咄嗟に笑顔を作り、おはようございますと、努めて明るく声を掛ける。


「あ、えっ??」


そのメイドさんはまるで信じられないものを見たかのように目を見開き、僕を見詰めたまま動きが硬直した。


あれ、今って朝だと思ったんだけど、違ったのか?

なんて考えたけどどうやらその疑問は後回しみたいだ。

何度かよそ見をしたかと思えば、またこちらを見つめて固まる。僕は目の前のメイドさんのそんな反応を見てつい笑ってしまう。手も振ってみた。


「ぼ、ぼっちゃま?目が覚めたのですか??」

動揺しているようで、少しつっかえながら僕に質問を投げかけてきた。


「ええ、今目が覚めたところです。ところで、ぼっちゃまとは何でしょう?それにここがどこなのかもわからないのですが・・・」


矢継ぎに質問をしてしまい、少し申し訳なく思うが本当に覚えがない。

一度見たら忘れないであろう整った容姿をしている目の前のメイドさんの顔も名前も全く知らない。


うーん。あわあわと混乱しているメイドさんをよそ眼に、早く状況の整理を行いたいが、如何せん情報不足でお手上げだ。


「すみませんっ!早く、お、奥様に知らせないと!」


そう言って、掃除道具を床に放り出して足早に部屋を去っていった。

今度は奥様?誰のだ?まさか僕のか?

いやいや、絶賛失恋中の僕に配偶者なんているはずもないな。


あ、ということは実母か。

顔を浮かべてみるが、特に普通の家庭で育った自分の、少々過保護気味な母の姿を思い出すだけでまた考えが終了した。

アホか、そんな訳ないと。


可愛い子だったな。良い目の保養であったと一度思考を放棄した。


一連の非現実的なシーンが、まだ夢だと告げているようだった。

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