「電車は待っても彼女への告白は待たせるな!」

両翼視前

「電車は待っても彼女への告白は待たせるな!」

「いっそげ! いっそげ!」


 ただ俺は地元の駅まで走っている。

 「いっけなーい! 遅刻遅刻!」って思いっきり声を出して言いたいくらいの焦りっぷりだ。


 しかし、残念だが俺は男だ。大学2年生で可愛いが切れしまった悲しい男な。


 こんなことは女が言った方が絶対に可愛い。食パンもくわえていると尚更よき。


 しかし、残念だがこれは現実。こんな女はアニメか漫画かゲームにしかいない。


 そんなことはどうでもいい!


 俺の心の声が聴こえるサイコキネシストのみんな! 初めまして!


 俺の名前ははやける。この前、成人式したばっかりのピッチピチの20歳だ。


 大学は美大。コースは映像表現コース。


 そんなこんなで頑張って大学に通っているのだが、とんでもない課題を出されてしまった。

 「『キュンとする恋愛』作品の脚本を書いてこいッ!」って……

 ――ふざけるな! 俺はなんのために大学に入ってきたと思っている! 

 俺は王道の冒険ファンタジー作品を作るためにだ!


 あぁ、変なことを考えるな。俺の心の声が聴こえるサイコキネシストなんているわけないだろう! 脚を速めろ! 心を燃やせ!


 とにかく朝、一番目のバスで俺は大学に行って、作業をするんだよォォォオオオ!


 脚の速度を緩め、改札口に交通ICカードを通す。


 通ったならばカードをしまい、ホームに向かって脚を早める。


 待つなら4番目がいい。


 4番目なら名古屋駅に着いた時に、近くに階段がある。

 だから、そこに並びたいと思って並んだ時、見覚えのある背中が見えた。

 艶やかで腰まで伸びた黒髪、この後ろからにじみ出てくる雰囲気は間違いない。――ヤツだ。ヤツが目の前にいるんだ。



 名は――――遠堂冬雪とおどうふゆき



 小学5年生の時、いじめられて軽蔑されていたのに彼女だけはやさしい笑顔で微笑んでくれた。

 気がついたら、彼女のことを好きになっていた。


 この思いはなんだろうと『春』を歌いたくなるほど心が真っ赤に染まっていた。


 恋――――あぁ、これが噂のみんなが言う恋。


 だから、中学生の時に告ろうかとも思ったのだが、恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて…………ヤバい! 心もテンパってる!


 そもそもだ! そもそも!


 ――彼女は俺の名前を覚えているのだろうか……?


 もし、これから彼女の肩を叩いたとして、「俺の名前、覚えている……?」と聞こうとする。


 しかし、俺の未来を予測できちまう力は非情で、最悪な未来ばかりを映してばっかりいた。



〈未来視パターンA〉


「久しぶり~!」

「――――どちらさまですか……?」



 表情を見れば、恐ろしくも分かっちまう俺のことを覚えていない感じ。


 残念だが、高校生活は共にしてない以上は彼女の人生にとって俺はモブでしかないのだ。

 現実はいと非情なり……。


 彼女にとって影が薄い己の存在感を恨め……。



〈未来視パターンB〉


「久しぶり~!」

「――――えっ……?」



 残念だが彼女にとって俺へのやさしさは慈悲でしかなかった。


 見れば分かるだろう。ひいているのだ。

 このまま俺は「人違いでした。他人の空似でした」と言って、忘れよう。


 ありがとう……、俺の青春……。

 さようなら…………、永遠に…………。



〈未来視パターンC〉


「久しぶり~!」

「――――気安く話しかけないで」


 この未来視は一番傷がつくパターン! 


 暴力的!

 無慈悲!

 人でなし!


 残念だが俺の心は傷つきやすいガラスだ。彼女の一言によってバラバラに崩れてしまった。


 俺の心がもう元に戻らない……。

 過去の記憶の中でじっとしといてくれ…………。



 〈未来視パターンZZ〉を出てこようとした辺りで、ふと、現実に戻る。


 時刻表を見れば、もうそろそろ電車が到着してしまうではないか。

 実はこれから来る電車は正義のロボットでどこかで悪の怪獣が現れて討伐しに行ってくれるとありがたい。


 しかし、残念だがこれは現実。アニメじゃない!


 俺、動け! 俺! 何故、動かない! 

 どうする、俺……! ここでテンパっていたら後悔するぞ……!


 俺は今まで告白してこなかったことをずっと後悔してきたじゃないか!


 このチャンス、勇気を振り絞って言わなきゃ死ぬまで後悔するぞ!



 彼女に気づいてもらおうと肩を叩くため――手を伸ばす。



 そうだ! もし、未来視通りでも、未来視通りじゃなくても課題の脚本のネタにしてしまおう!


 だから、ありったけの勇気を出すんだ!

「――――」


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 無事に朝、一番の大学のバスに着くと、タイトルはどうしようかと緊急脱出口近くの席に深く座って考える。


 緊急脱出口に座ると、アイデアに行き詰まった時に、緊急脱出出来るような気がするからだ。


 ほら! そうこう考えているうちにタイトルが出てきた!


 タイトルは――「電車は待っても彼女への告白は待たせるな!」。



 これから、今日、起きたことを現実3割、ファンタジー7割で書いていこうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「電車は待っても彼女への告白は待たせるな!」 両翼視前 @ryoryoku0925

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ