女装したり女性ホルモンを打ったりする〝男性〟の物語。
自身の半生を振り返るような形式で綴られた、とあるひとりの男性のドラマです。
とても好き。手触りというか質感というか、基本的に前向きなところが読んでいて心地よくって……。
どうしてもセンシティブな側面があるというか、いろいろ人生に決断が必要になったりするものを抱えた主人公であるため、題材としてはどうしても重く深刻になりがち……という印象が(あるいはただの偏見であれ)あったのですけれど。
でもこの主人公の場合、いろいろ迷ったり悩んだりしながらも、あまり暗くならないところがもう本当に大好き。
彼なりに苦労や大変なことはいろいろあるにしても、でも「彼が彼であることは決して悲劇でない」と思わせてくれる、そこが読んでいてとても心地よかったです。
性別に違和を抱えた人の物語である、という以前に、「この彼自身の体験」としての強度がしっかりしているところが魅力的な作品でした。