あすなろ県

 これは俺が小学生の夏休みにじいちゃんちに2泊3日した時の話だ。

 中学受験が決まってた俺は、勉強の息抜きということでじいちゃんの家に泊まることになったのだ。じいちゃんちはボロくて、死臭とも言えるような何かが腐った匂いがして嫌いだった。息抜きなんかにはならない、でも両親もじいちゃんも俺のことを考えてしてくれてることだと分かっていたので、反抗せずに大人しくじいちゃんちに泊まった。


 その日は夜からじいちゃんちに行くことになっていた。じいちゃんちに着いた俺はばあちゃんの仏壇に線香をあげると、もう夜遅かったので布団に入り目を瞑った。すると、奇妙な声が聞こえてきた。

『許さない許さない……』

俺はたまに聞こえてはいけないものが聞こえることがある。いつもの"それ"だろう。それは声が聞こえてきても俺が断固とした姿勢で無視し続けるとやがて静かになる。霊、的なものだろうがなんだろうが、死者の時点で生きている我々に干渉出来てもその生命力に打ち勝つことは出来ないのだ。脅かすことがせいぜい。だが、その声はどんどん大きくなっていくのであった。

『許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない』

声がうるさくて眠れない、脂汗が止まらない。瞑っていた目を思わず開いてしまったその時

天井にびっしりと


『おしりの大サーカスしり取り大会 宮坂学氏を励ます会 地元ボランティアの皆さま、ありがとうございました。

おかげさまで、またひとつ、夢がかないました。

すばらしい1日でした。

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 と、謎のブログをコピペしたような文章が書かれていた。

 その横には『夢と希望と和歌山県南部に位置する航空自衛隊串本分屯基地の記念行事として、「オランウータンえなりかずき」が披露された。基地内は大盛り上がりで、肩車をしたり握手をしたりと大歓迎だった。日本で最も南に位置する島・沖縄県久米島では、「オランウータン久米小町」が披露され、こちらも島民は大興奮だったそうだ。』と書かれている。わけが分からない。ふと左右を見てみると、枕元には8000頭のオランウータンが所狭しと配置していた。

「わあっ! な、なんだお前ら!?」

「ンゴ」

「ンゴンゴ」

「ンホ……」

 オランウータンは何やら媚びるような視線を俺に向けてくる。完全にロックオンされているようだった。

「え? あ、いや……全然いらないです」

 俺は丁重にお断りした。すると、オランウータンたちは一斉にブーイングを始めた。うるせえなこいつら……。

 「あ! そうだ!」と俺は閃いた。このオランウータンたちを交配させて、オランウータンの森を作ればいいのでは? そうすれば、大森林からくるエサも解決できるし、オランウータンたちも幸せになる。まさに一石二鳥じゃないか! よし! そうと決まれば早速行動開始だ! 俺は早速オランウータンたちを引き連れて森へと繰り出した。

「ンゴゴ」「ンゴンゴン」「ンホホ」「ンゴゴゴ」

 うるせえ……オランウータンてのはこんなにうるせえのか、信じられない、耳が破裂しそうだ。

「こちらが契約書になりますね、はい。ありがとうございます、サインも確認しましたのでこれで契約成立です。」

 そんな声が聞こえてきたので、知性のある人間がここに1人混じっていることがわかった。

 キョロキョロと辺りを探すと、一際顔のデカいオランウータンが仲間オランウータンとそこで何らかの契約を交わしている姿が見えた。

「なんの契約を交わしているんですか?」

「戸建てが欲しいというお客様がいまして、その売買の契約ですね。」

「今言語を使って会話していましたよね?」

「はい。オランウータンっていうのは、人間にはバレていないのですが、人語を介すことができるのです。」

 驚愕だった。ならばさっきのンゴンゴ言ってるオランウータンは何だったのか。すると1人のオランウータンがやってきた。

「こんちは、さっきの求愛オランウータンっす。人語、介せやす。あーチンポチンポ……」

 なんだこいつ……。

 すると、顔のデカいオランウータンが声をかける。

「こんにちは、どうなされたんですか?」

「ボス、」

「ん?」

「オランウータン、番ってなんぼやねん」

 ボスと呼ばれる顔のデカいオランウータンが答える。

「もちろん、オランウータン次第ですね」

 するとさっきの求愛オランウータンは続けた。

「せやったら俺ボスと番いたいっすわ」

 俺は耳を疑った。番いって何だ?交尾のことだろうか?でもそれって男女でするんじゃないの……?ここはひとまず探りを入れるか……。

「番って、交尾のこと?」

「せやで。」

 やっぱりか。俺は思ったことをストレートにぶつけてみることにした。

「男同士でそんなことするの!?きっしょ!マジありえねぇわ!」

 すると求愛オランウータンは鋭い眼光を俺に向けた。

「おいお前、今なんつった?あ?」

 やばい……怒らせたか……?殺されるかもしれない、そんな恐怖が一瞬よぎるが、俺は負けじと睨み返した。するとボスと呼ばれる顔のデカいオランウータンが会話に割り込んできた。

「まあまあ、喧嘩しないでくださいよ」

「は!? 俺は悪くねえ!こいつが俺達に生意気な口を聞いたから……!」

「まあまあ落ち着いてください。彼はまだ子供ですよ?」

 そうだ、俺は子供だ。俺は時にその事を忘れそうになる。俺はふと、5歳の頃の芦田愛菜ちゃんを思い出した。あの芦田愛菜ちゃんは俺だ。幼いのにも関わらず、大人のようなムーブを強要され、何を言われても言い返すことをせず、ニコニコと笑っている。そんな俺が、相手がオランウータンとはいえ強い言葉を出すことが出来た。これは成長じゃないか。


 俺は求愛オランウータンと、顔デカボスオランウータンと肩を組んだ。それで俺は今日から人間の元に帰ることは出来ない。オランウータンの森で、生活することになったのだ。俺はこの森にはあすなろの木が群生していることから、あすなろ県と名付けた。しかし俺は性差別的な発言をしたことから村八分にされることになる。これ全部、ホンマの話。

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サナギ 蟻カス @mushibamu

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