第4話 毒使いの俺。何が正解か悩む。

 自分の身を考えるとリスクは負えないエルマ。

 ライノを出し抜くために多大なリスクを負おうとするノルン。


「正直、普通に考えたらエルマのような反応になるよな」


 仮に俺がぬれ衣で捕まったとしても、脱獄すればそれは立派な犯罪者だ。

 脱獄を手助けしようものなら、共犯として要らぬ罪を被ることになる。


「あのノルンの言い方だと俺がぬれ衣で捕まったと分かった上で牢を出る手助けをするって言ってるんだよな……」


 だったらなおさら不可解だ。

 ノルンがそこまで俺に肩入れする理由が思いつかない。


「まさか、本当に俺のことが好きなのか……?」


 誰かを好きになることならまだしも誰かから好かれることなんて今まで想像もしてこなかった。

 もしかしらた、俺が知らないだけであれが人から好かれると言うことなのか?


「いやいや。あのノルンのことだ。何かしら裏があるはず」


 悲しいことだが俺が誰かに好かれるような顔も性格もしてないことは俺が一番。よく分かっている。


「まあいい。一旦落ち着いて考えよう」


 そう思い、また固い床に寝転ぶ。

 

「なんだか冷たい床も悪くない気がしてきたな」


 ぬかるんだ泥や砂、小石だらけの岩場なんかでも寝たことはあるが、それらと比べればここの床は天国かもしれない。

 もっと言えば、ここにいれば魔物に襲われることもないし、一応食べるものにもありつける。


「もしかして、ここ天国じゃね」

「こんなねずみも住まないような場所が天国な訳があるか」


 また来客かと体を起こすと、そこには上半身半裸の男がこちらを見下ろしていた。


「よお、ドルク。お前も俺が心配になって会いにきてくれたのか?」


 俺がそういうとドルクはフンっと鼻を鳴らし。


「そんな訳あるか、元パーティメンバーの犯罪者が牢にぶち込まれたって聞いたんで笑ってやろうと思って来てみたら、ここは天国だぁ~なんて間抜けなこと言ってるから呆れてるんだ」

「あっそ」

「全く、もっと悲壮感に溢れる態度でいれば、俺も同情して少しは疑いを晴らしてやろうって思うんだが。お前のそういうところが鬱陶しく思われるんだぞ。この間もダンジョンでデュラハンに囲まれたときも一人だけ笑ってやがったし……お前頭どっかおかしいんじゃないか?」


 薄々そんな気はしてたが、改めて仲間から言われるとショックデカイな。


「ま、まあ。なんだ……俺だって本気でここが快適なんて思ってない」


 いや、さっきまでは本気で思ってたけど。


「でもさ、考えてみろよ。こうやって頭おかしくなるぐらい前向きに考えないと、こんな牢で暗く沈んでみろって、すーぐ嫌になって死にたくなってくるぜ? そう思えばこそ、ここは天国だなぁーなんて思ってみたり……」


 明らかにドルクの顔は引きつっていた。

 まるで可哀想な猿を見ているかのような。

 そんな表情を俺に向けていた。

 

 俺も悲しくなってきた。


「……ドルクは俺のこと好きか?」

「は?」

「好きか!? 嫌いか!? はっきりと言ってくれ!」

「本当に頭がどうにかしちまったのか?」

「いいから! 答えろ!!」

「べ、別に嫌いじゃねーぞ……す、好きでもねーけどよ」

「そうか。ありがとう」


 俺の勢いに渋々と答えたドルクだったがその答えに嘘はなさそうに俺は感じた。

 つまり、俺はパーティメンバーから嫌われていた訳じゃない。

 

 俺が今までやってきたことは別に間違っていたわけじゃないと言うことだ。

 だから、俺は俺のままで生きていていいんだ!


 そう思うと、なんだか急にライノに対して怒りが沸いてきた。

 何で俺がこんな目に会わなければならないんだ……。


「復讐してやるぞ……」

「ま、まあなんだ。元気そうだし俺はもういくぞ」


 そういうとドルクはさっさと行ってしまった。

 やはり一人になると少し寂しいのだが、今の俺はライノにどうやって復讐してやろうかと考える楽しみが出来た。

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毒使いの俺。高貴なる勇者のパーティには相応しくないと追放されたが、重労働だったので清々する。これからは自分のために生きようと歩き出したのだが……早くも戻って来いと言われているが無視しています。 ハクビシン @ganndamu

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