第3話 毒使いの俺。脱獄を考える。
エルマが去ってから程なくして今度はノルンがやってきた。
「クロウさん、思ったよりも大丈夫そうですね」
牢を覗き込むようにして、ひょっこりと顔を出すノルン。
どちらかと言うと豪快なエルマとは対照的におとなしい小動物のような彼女だが性格はかなり悪い。
「なーんだ、私を見た瞬間に助けを請うぐらい必死なクロウさんが見れると思ったのに、全然平気そうでつまんなーい」
俺はこいつも嫌いだ。
「私が着替えている時は、鼻の穴大きくして、目をぎらぎら充血させて必死に凝視してくるのに。自分が濡れ衣で捕まったときはそんなつまらなさそうにしてるんですね。もっと自分の欲望とか感情とかに素直な人かと思ってました」
「何が言いたい?」
ノルンはしゃがみ俺と視線の高さを合わせると、ニタァと笑みを浮かべる。
「一緒に、ライノさんを出し抜きませんか? 私ならクロウさんをここから出してあげることも疑いを晴らすことも出来ますし、何なら逆にライノさんを牢に入れることだって出来ますよ?」
冗談――ではなさそうだ。
ノルンの考えていることはいつも分からない。
いや、分かりたくないのかもしれない。
彼女のそこにあるドス黒いものは常人の思考とはかけ離れている部分がある。
利用できるものは何でも利用する、害を成す者はとことん痛めつけて排除する、邪魔なものは何の躊躇いもなく壊す。
今まで一緒に冒険をしてきたが、ライノとは反りが合わないだけだがノルンはそもそも俺とは相反する。
それは彼女自身も感じているはずなのだが――。
「目的はなんだ? ノルン」
「……私、ライノさんが嫌いなんですよね。貴族ってだけで偉そうにしてるし、貴族ってだけでリーダーやってるし、貴族ってだけで色々押し付けてくるし……親の七光りで威張ってんじゃねえぞ」
ノルンが格子を握ると鉄製の格子がぐにゃりと歪む。
その光景に俺の表情も思わず歪む。
「……とにかく嫌いなんですよ。その点、クロウさんは雑用も文句も言わずやるし、戦いでも頼りになるし、ご両親も元はバリバリの勇者でしたけど、今は現役を引退して国の仕送りで生活してるのであんまり干渉してこなさそうじゃないですか」
「待て待て待て。ライノが嫌いなのは分かったが俺の話は関係ないだろう。ライノを蹴落とすだけならいつも通り俺をただ利用すれば……」
突然、ノルンの手が俺の腕を掴み、グイッと引っ張られる。
ノルンとの顔の距離が格子を挟んでほぼゼロ距離。
今にも彼女の呼吸の音が聞こえてきそうなほどの近さ。
「もう、クロウさんは鈍いんだから。私、クロウさんのこと結構好きですよ」
彼女の一言一句が発せられるたびに、甘い匂いが鼻を刺激し、妙に熱っぽい声色が耳を震わせる。
思わず勘違いしてしまいそうになるほどの誘惑が俺の心を激しく振るわせる。
「クロウさんが、望むなら私の体……好きにしてもいいですよ」
ノルンが俺の手を強引に自分の胸元へと誘導する。
そして俺の手は彼女の柔らかい胸に触れてしまう。
むにゅりと、柔らかい感触に思わず自らの意思で触れてしまいそうになるが、ぐっと堪え、俺は強引に腕を戻す。
「はあ。はあ。はあ……俺を揺さぶって何がしたい!?」
心の高鳴りを抑えるために、呼吸を整えつつも大声出して気持ちを悟られぬように誤魔化す。
このままでは何もかもがノルンの思い通りになってしまうような気がした。
「さっきも言ったじゃないですか……一緒にライノさんを出し抜きましょう?」
俺はどうしたらいいのか分からなくなり、ノルンに一日だけ待ってもらうことにした。
「衛兵さんから聞いた話だと、しばらくクロウさんの身はこのままだそうですので。ゆっくりじっくりと考えてから返事をくださいね」
そう言ってノルンは優しい笑みを浮かべて、俺の前から居なくなった。
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