第2話 毒使いの俺。投獄される。
薄暗い牢に放り込まれて、すでに3日の時が流れていた。
その間に変わったことと言えば、かびたパンと薄い水みたいなスープが運ばれてきたことぐらいで、俺がこの先どうなるかなどの具体的な情報は何もない。
もしかしたら、調べたら誤解でしたー。なんて甘いことを心のどこかで考えているがここまでしといてそれはないだろう。
「ああ見えて、ライノはずる賢いからなぁ……」
自分の利益になることには頭をフル回転で使えるタイプに人間。
それがライノだ、おそらく実行に移す前にきっちりと証拠をでっち上げているに違いない。
つまり、俺がこの先行き着くのは死――という訳だ。
「死ぬのか。俺……」
思えば、王都を出発してから碌な目にしかあってない。
食事は当番制だが、ライノは基本作らないし、魔法使いのエルマの作る飯は食えたもんじゃない。
戦士のドルクが作る飯は味が濃くて肉ばっかり、ヒーラーのノルンは野菜ばかりで物足りないから俺が基本的に作るしかない。
荷物持ちは基本俺。
宿の部屋をとるのも基本俺。
ダンジョン調査も基本俺。
報酬の交渉も基本俺。
王都への活動報告も基本俺。
お金の管理も基本俺。
夜番も、夜営の準備も、魔物の処理も、売買も、道具の管理も……。
「俺居なくなって大丈夫か?」
まあ、人間何とかなるだろう。
そう思いながら、牢の硬い石床に寝転び、うっすらと明かりに照らされる天井を眺める。
「まあ、なんだかんだ楽しかったなぁ」
色々無茶はしてきたが、俺はうまくみんなと仲良く出来てると思ってたし、足手まといのつもりもなかったが、まさかこんな目に会うとは考えたこともなかった。
「俺ってそんな駄目な奴だったか」
「さっきから、なーにを一人でぶつぶつ話してんだい」
突然、女の声が聞こえて慌てて体を起こす。
すると牢の格子の前にしゃがみこむ見慣れた魔法使いがいた。
「エ、エルマ!? ま、幻じゃないよな?」
「何を寝ぼけたこと言ってるんだい。あんたが投獄されたって聞いて慌てて来たって言うのに、当の本人はのほほーんとのん気に寝てるんだから。呆れちゃうよ」
エルマはやれやれと言った感じで首を横に振る。
「慌ててって……ライノから何も聞いてないのか?」
「ライノ? 何でライノの名前が出てくるのさ」
「いや……その何だ、信じてもらえないかも知れないけど、ライノが俺を内通者だって王都の大臣に言ったみたいでさ」
「はあ? なんだいそりゃ。あんたが内通者? 一体誰の?」
「……魔王軍」
俺の言葉にエルマは大声で笑いだす。
「あ、あんたが? 魔王軍の内通者? そりゃなんの冗談だい。あの伝説の両親を持つあんたがわざわざ人間を裏切って魔王の味方をするとは誰も考えないけどね」
「ほんとエルマの言う通りなんだけどさ……ってかエルマはどうやってここに?」
「え、ああ。普通に昔の仲間の好で別れの言葉を伝えたいって言ったら入れてくれたよ」
警備のずさんさに思わず言葉を失う。
もし内通者が一人じゃなかったらどうするんだろうか。
このままエルマの助けで脱獄できるちゃうぞ。
「まあ、でも。あんたには悪いけどさ。そのー、なんだ……助けてくれって言われても難しいからさ。そこんところは理解しといてな? 別にあんたのこと嫌いじゃないけど、命を掛けられるほど好きって訳でもないし」
まるで人の心を見透かすかのように、エルマは俺の心を鉄槍のように鋭い言葉でグサグサと貫く。
ま、まあ。分かってたけどね。
俺の価値なんてその程度だってね。
「そういう訳だから、最後にあんたの顔見れたし、ばいばーい」
そう言ってエルマは牢の前から去っていった。
少し寂しさも感じたが、彼女の言うとおり俺は助けてもらえるほどの価値のある人間じゃないってことは重々分かった。
「なら、俺も覚悟を決めるか……」
こうして俺は脱獄のための計画を練ることにした。
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