人を裁くという事

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は裁判官だ。


 裁判官の仕事は、将来の選択肢としてすぐに思いつくような、そんな有名な仕事ではない。


 そんな仕事がある事すら忘れているという者達が、大半だろう。


 そのあまり有名ではない裁判官の仕事内容は、人を裁く事。


 私はこれまでに、数千人の人間に法の裁きを与えてきた。


 有罪か無罪か。


 罪に対してどんな罰を与えるのか。


 しかし、私は人間であり、神でもない。


 全てを見通せるわけではない。


 だから、私のその裁きがぜったいに正しく、罪に見合ったものかと言われると自信がなくなる。


 それでも、人間の社会をまわすためには、裁きの存在は必要なのだ。


 人が人らしく生きていくためには、罪に対する裁きが与えられなければならない。


 そうしなければ、犯罪を罰することができなくなり、罪を犯す者達が増える。


 治安が悪くなる一方だ。


 誰からも確かだとお墨付きをもらえない、この仕事。


 間違いや冤罪などもありえる。


 出来る事なら誰もやりたくないだろう。


 けれど、確かに必要な仕事の一つだ。


 人間の歩む社会は、様々なところで矛盾をはらんでいる。


 誰かが苦しい思いをしなければ回らないのだ。


 だから、その役目は私が負う事にしよう。


 人よりほんの少し、視野が広いだけのこの男が。


 人よりほんの少し、精神力が鍛えられているだけの男が。


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