over extended.

 1年ぶりの、雪原。

 というか、草原。


「今年は、暖冬だったか」


 雪がない。

 そりゃあ、そうか。夜もあまり寒くならないっていう土地だし。少し冬が暖かければ、雪も降らないか。


「うぁ」


 声。


「あ」


 彼女がいる。


「え。まだ雪降ってないのに。うそっ」


 いやいやいや。こっちの台詞。

 雪の精が、雪ないのに降臨していいんですか。それとも、これから降らすとか?


「いや、まあ。まだ本格的に雪は降ってないので私の仕事は少ないですけど」


「え。仕事?」


 やっぱ降らすのか。降らすのが雪の精なのか。


「あれ。言ってませんでしたっけ。私の仕事。あれです」


 彼女が、指差した方向。


「なにあれ」


 なんか、よく分からない、ばかでかい何か。


「降雪機です」


「降雪機」


 ずいぶん現代的な雪の精だこと。


「雪をなだらかにして、雪がないときは雪を降らせるのが仕事です」


「へえ。さすが雪の精」


「雪の精?」


「え?」


 うそ。


「なんのはなしですか?」


 まじで。

 彼女。

 実在してるじゃん。

 うそでしょ。


「なにびっくりしてるんですか」


 彼女が、近づいてくる。


「私に会いたくて、ここへ?」


 なんと答えたものか。

 いやいや。でも。写真。


「わたしは。あなたに会いたくてここへうわぁぁ」


 えっ。ちょっと。

 あぶなっ。

 転びかけた彼女を、支える。暖かい。


「ありがとうございます。だめですね私。転んでばっかりで」


「あ。もしかして」


 撮った瞬間に。彼女。雪のなかに転んだのか。だから写真に写ってないのか。


「どうしました?」


「いや、なんでもない」


「私も。雪が好きな理由。わかりました」


 ん?


「私。よく転ぶんです。ほら。胸が大きいから。下がよく見えなくて」


「もしかして」


「はい。転んでも、雪ならいたくない。だから雪が好きです」


「うわ安直」


「いいじゃないですか。安直で」


 それも、そうかも。

 実在してる人間を雪の精だと勘違いして、幻想的な雰囲気に浸るよりはいい。


「それに。あなたにも会いたかったので」


「わたしに?」


「はい」


 彼女。隣に来る。でも、身体はくっつかない。


「私。よく転んでばっかりで。胸ばっかり大きくて。それで、あんまり他人に良くしてもらったことがなくて」


 いや。冬装備で胸のことはぜんぜん分かりませんでした。暖かかったけども。


「でも。あなたのことは好きです」


「良くしてもらったから?」


 わたし何もしてなくないか?


「いや、顔が」


 顔か。顔かぁ。


「だからわたしの表情曇るのが、すぐ分かったのか」


「えっごめんなさい。また顔が曇っちゃった」


「この顔。好きじゃないんだよな。おとこだから」


 からの、笑顔。


「えっ。えっえっ」


「嘘です。この顔、けっこう気に入ってるよ。なかなかわるくないよね?」


 本当は、この顔もあんまり好きじゃない。

 でも、まあ。彼女がこの顔を好きなら。

 結果としてはわるくない。










「でも私のほうが2つ年上です」


「え?」


「インタビュー読みました。歳が載ってた」


「まじで?」

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滴雪(Hi-Sensitivity) 春嵐 @aiot3110

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