@kakuyome-3206

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私たちの体は、時々光る。

当たり前のことなのだけど、最近妙に気になってしかたない。

お父さんやお母さんに聞いてみた。でも、「どうしてだろうねぇ」と困ったように微笑まれただけだった。

そんな親が、どうにも不気味だった。

納得はできなかったが、それ以上問い詰める気も起きなくて、はは、と曖昧に笑った。

次に、おじいちゃんにも聞いてみた。

いつもは私が話しかけると、不器用に、だけど嬉しそうに話してくれるおじいちゃんだが、今回ばかりはそうではなかった。

口をつぐんで、視線をあっちこっちさせながら、なにかを言い淀んでいた。結局出てきたのは、「…何でだろうねぇ」という一言だった。


この世界には、私が見落としていることがたくさんある。そう気付いただけで、なんだかひどく恐ろしい。自分のことさえ分からない。

最も私に身近であるはずの自分について、世界について、実のところ、私は何も知らなかったのだ。信じれるものが、一つもない。


大人になれば、ある程度折り合いをつけることができるのかもしれない。お母さんやお父さんのように。

もっと大人になれば、本当のことを知れるのかもしれない。おじいちゃんのように。

ただ、今の私にはどちらもできない。

どうしても無知で無力なくせに、都合よく生きている私を許せない。

私にできることは、ただただ思考を浪費することだけだった。



自分の殻に閉じこもり、考えることを停止もできずに、それでもなんとかへばりついて生きているうちに、ふと、自分の体の光が鈍くなっていることに気がついた。自分の体の変化に、恐怖する感情もあったが、それより先に、高揚感が私の中に広がった。


その異変に気づいてから、少し、というには長すぎる、中途半端な時間が経った。

私の光は、点滅を繰り返して、つかないときもままあるようになっていた。

突然、私はお母さんとお父さんの元から引き離された。別れを言う間もなかった。知らない暗い場所に運ばれて、ゴミのように放り投げられた。

あまりに流れるように日常が変わり呆然としていた。が、私の適応能力は案外役に立つもので、すぐに散漫な思考へと戻った。

なんとなく、私の終わりが近づいている気がした。それが死なのかは分からない。死んだことがないから。だけど、たぶんそうなのだろう。

堂々巡りの思索とももうお別れだ。


私の体はあっけなくバラバラになった。これからどこに行くのかは私にも分からない。

だけど、私の体が光る理由が、ほんの少し分かった気がする。

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