最終話
グデオンと偶然の再会を果たした時から、数日後。私は場所を移動して、別の街へと訪れていた。
えーと、確か。
名前をどう忘れしたので、街の看板に目をやった。
そうそう、ジンドの街だ。
それなりに栄えていて、人や冒険者も多い。けど、観光地というよりは、住宅が多く定住者が多いイメージだ。
だいぶ前だけど、ここには来たことがあった。
えーと、確か武器を買いに鍛冶屋によったんじゃないかな。
だいぶ前のことだし、色んな街に行っているから記憶はあいまいだ。
この辺のギルドを利用したこともあるけど、長居はしたことはない。だから、あまり冒険者の情報は知らない。
けど、記憶の中では、わりかし立派な装備をしている冒険者が多かったような。
どうしよっかな。せっかくだし、新しいところに行ってみるかな。
ジンドの街はかなり広いから、ギルドもいくつかある。
私は街道を適当に歩きながら、ギルドを探していく。
少し歩いて、私の目に入ってきたのは、それはそれは立派な図書館だった。階数が結構あり、人の出入りが激しかった。
図書館か、地元にはなかったから、地味に行ったことないかも。
いやいや、今はそれが目的じゃない。
私は何かないか周りを確認すると、少し先にそれらしい木造の当てものを発見した。
きっと、あれじゃないかな。
少し歩みを進めると、すぐにその場所に辿り着いた。
やっぱりそうだ。
ギルドの看板が経ってある。
街の人口に比例して、ギルドもかなり大きく作られている。まず扉が大きい。
よし、じゃあ入りますか。
私は、入り口を抜けてギルドの中に入っていった。
「ひろーい」
やっぱり気持ちいぐらいにだだっ広い。お馴染みの酒場もあり、席数も多い。よくみたら、2階もある。
ちらほらと冒険者がその席を埋めていて、うまそうに酒を楽しんでいた。
少しがやがやとして雰囲気だが、嫌いじゃない。
さてと、どうしようかな。
とりえあず来てみたけど、どうやって探そうかな。
グデオンの提案で「とにかく強い奴」を探しに来たわけだけど、特にあてがあるわけじゃない。
周りの冒険者に聞いてみるか、受付の人に聞いてみるか。
私は誰に尋ねようかと考えながら、奥へと進んでいく。すると、ギルドの脇のほうにひときわ大きな掲示板のようなものを発見する。
クエストボードか。
端から端までぎっしりと依頼書で埋め尽くされている。
あいかわらずのゴブリン退治に、薬草採取。へー、モンスターの卵を持って帰れ、なんてのもある。
なんとなくそれらを眺めていると、少し毛色の違う張り紙を見つける。
よく観察したら、クエストが記された依頼書ではなかった。
えーと、なになに。
私は丁寧な字で書かれたそれを、上から読んでみる。
しばらくして、私は驚いた。
まさか、そんなことって。
私は目を疑いながら、もう一度初めから読むことにした。
『新パーティー【ハンドレッド】に加入してくれる、ヒーラーを募集中!』
急成長を遂げた若き冒険者ララク・ストリーンが、パーティーを結成することに。条件はたった1つ、回復スキルを持ったヒーラー、ということだけ!
彼は魔熊の森の主 ケルベアスや、海住まうシーサペントを討伐した輝かしい実績があります。
まだ18歳で、これから成長する事間違いなし!
この波に乗り遅れるなっ!
間違いない。ヒーラー募集のおしらせだ。
しかも、書いてあることが本当だったら、私が求める人間と合致する。
噂でしか聞いたことがないけど、ケルベアスとシーサペントは、確かレベル60近いとんでもモンスターだ。
レベル40代の私じゃ、倒すのはまず無理だ。
でも、疑わしい部分もある。
それは、18歳という点だ。
私がその歳の時は、まだレベル20か30の間ぐらいだ。
そんな年の子が、強力なモンスターを倒すことなんて可能なのだろうか。
でも、ここに張り出されているってことは、ギルドの承認を通した公式の募集ってことだよね。
うーん、ちょっと聞いてみるか。
私は近くの受け付けカウンターに行くと、そこにいる係の女性に声をかけた。
「あのすいません」
「はい、クエストの受付ですか?」
彼女は私に気がつくと、てきぱきとそう答える。でも、顔はどこかおとぼけている。きっと私が見ない顔だからだろう。
「いや、あのヒーラーの募集についてなんだけそさ」
私は親指で、クエストボートがある方角を指した。
すると、数秒だけ彼女は固まるも、すぐに目を輝かせて喋り始めてくる。
「っえ、もしかして加入希望者の方ですか!?」
なんでそんなに驚いているのかは分からない。まーでも、ヒーラーは希少らしい。だからかな。
「いや決めたわけじゃないけど、ちょっと詳しく聞きたくてさ。リーダーについて」
「なるほど。ということは、回復スキルを持っていらっしゃるということですよね?」
「まぁね。一通りは。あれだったら、紋章でも見せるけど」
私は右手にある紋章を彼女に向ける。これに触れれば、私がどんなスキルを所持しているかを映し出してくれる。
まぁ、個人情報だからか、むやみやたらにさらすようなものじゃないけど。
私は初めて会うわけだし、信用してもらうためなら仕方がない。
「あ、いえいえ。そこまでおっしゃるなら信用します。
えーと、ララクについてですよね」
どうやら、紋章を見せなくても話が進んでくれるようだ。
聞きたいことがいくつあるので、私は彼女に根掘り葉掘り聞くことに敷いた。
「そうそう。あの実績ってホントなの? にわかには信じがたいっていうかさ」
彼女は私の事を信用してくれたのに、今度はギルド側を疑うような質問をしてしまった。でも、そう感じてしまうのだから仕方がない。
「あー、ですよね。でも、シーサペントの方は正式なクエストですので間違いありません。ご依頼主にもしっかりと確認を取りましたし」
彼女は特に資料などを読むことなく、すらすらと教えてくれた。もしかして、この人があの募集の紙を書いたのかな。
「そっか。じゃあ、信じるけどさ。
今度はそうだな~、そのララク?だっけ、どんな奴なの?」
今後仲間になるかもしれない相手だ。事前に情報は知っておきたい。特に経歴が驚くべきものなので、よりその人物像が気になっていた。
「どんな奴、ですか。一言では難しいですけど、努力家、ですかね」
「へー。まぁ、その年で実力が高いってことは、かなりクエストをこなしてるってことだもんね」
「えぇまぁ、そうなんですけど。一人前の冒険者になることに凄い憧れていて、最近ようやく実力が身についてきたんです」
どこか彼女の言葉は歯切れが悪かった。
それに、言っている内容が、私にはピンとこなかった。
そんなに一気に強くなることなんて、あるのかな?
もしかして、偶然高レベルのモンスターを倒して、レベルが一気にあがったとか?
「ふーん、まぁよく分かんないけど、強いことは間違いなさそうだね」
「えぇ、おそらく。いやー、こんなにも早くヒーラーの方が見つかるとは思ってもいませんでした。
18と言ってもまだ、幼いですから、あなたのような大人の方がついてくれると、個人的には安心できます」
まるで母親のような愛を、彼女からは感じる。なんていうか、母性本能ってやつ??
「ちょっとおねぇさん、私はまだ入るか決めたわけじゃないし。まだそいつに会ってもいないんだから」
受付嬢だししっかり者にみえたけど、意外と私情を挟むタイプみたい。
「っあ、失礼しました。そうですよね、すみません先走っちゃって」
彼女は少しだけ恥ずかしそうになりながら、私に軽く頭を下げた。
「いいけどさ。それで、そいつは今どこにいるの?」
このおねぇさんが肩入れしているその相手に、すぐにでも会ってみたかった。どんな感じの奴なんだろう。
ギルド内を見る限り、該当しそうな幼い冒険者は見当たらないけど。
「えっと実は今クエスト中でして。もしかしたらもうしばらく帰ってこないかもしれません。っあ、でも数日この街に滞在して頂ければ、帰ってくるとは思うんですけど」
あら、ちょっとタイミング悪かったか。
数日か。まぁ別に急いでいるわけじゃないし、別にいいか。
「ん、じゃあそうしようかな。ここの酒場で飲んでるよ。あとは、暇だったらクエストにでも行こうかな」
お金はそれなりにある。ソロになってから、羽振りは結構いい。ここの酒場は広くてゆっくりできそうだし、少し満喫しようかな。
「ありがとうございます。それでは、ララクが帰ってきたらすぐにご連絡差し上げますのです。それで、よろしければ名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
そういえばまだ名乗ってなかったっけ。
「ゼマ・ウィンビー。それじゃあ、待ってるよ」
私はそういうと、ギルド内の酒場へと移動していく。
入るかはまだ分からないし、あっちも私は入れるか分からない。
でも、とりあえずどんな顔をしているのかは気になるな。
◇◇◇
次の日、私はギルドの酒場で飲んだくれていた。
今日のつまみは、やきとりを中心としている。
ここは酒も旨いし、料理も旨い。
まぁ、1つ言いたいことがあるとすれば、人の流れが多すぎることかな。
私は見慣れない顔だから、結構ちらちらと見られる。私がヒーラーっていう事は黙っておこう。勧誘されるのは面倒だ。
そんな中、ギルドに新たな冒険者がやってきた。
背はかなり小さい。
160、あるかないかぐらいだ。
顔は童顔で、身長もあって女の子みたいな可愛らしさも感じる。
軽装だけど装備はしているから冒険者だよね。でも、なぜか武器は見当たらない。レザスみたいに拳で戦うタイプには見えないけど。
あれ、もしかしてこの子が……。
私はその子を目で追うと、彼は私の横を通り過ぎていった。なかなか堂々とした表情をしている。
そしてそのまま、受付へと足を運んでいく。
担当は、私が話したあの受付嬢だ。
少しだけ聞き耳を立てると、彼女の声が聞こえてきた。
「あれ、ララクじゃない。もう帰ってきたの?」
お、ビンゴ。
やっぱり彼か。
18歳って書いてあったけど、もっとうんと若く見える。14,5と言われても納得する。
なんだか、ギオを思い出す。
あの子も、こんな感じで冒険者なのか。
身長はもっと伸びていそうだけど。
私はしばらく酒を飲みながら、彼を観察していた。
クエストは無事成功したようで、報酬金を貰っていた。
いやー、いまだに信じれないな。
こんな小っちゃい子が、森の主とかを倒したなんて。
しばらくすると、受付の彼女がこちらに視線を送ってきた。
「ゼマさーん、【ハンドレッド】のリーダーが帰ってきましたよ」
彼女は私に向かって手を上げて知らせてくれた。
そういえば、なんでハンドレッドっていうんだろう。
まぁ、そのうち分かるか。
私は立ち上がると、彼の元へと歩いていく。一応冒険者の証ってことで、アイアンロッドも持っていくことにした。
そんな私を、彼は目を丸くして見てきた。
ふーん、やっぱり可愛い顔してるな。
「あんたがララク、だっけ?」
名前、合ってるよね。
私は一応、確認のために尋ねてみた。
「あ、はい。あなたが募集を見て来てくれたヒーラーの方ですか?」
彼は私の恰好を隅々まで見ていた。
ま、注目はするか。
私はヒーラーだけど、戦闘をしやすいようにかなり露出している。
腕だし、へそ出し、脚だしだ。
「っそ。なんか面白そうだったからさ。私の名前は、ゼマ・ウィンビー。よろしく」
面白そう。私は彼をみた時から、ずっとそう感じていた。
色々と彼は謎だ。
その幼さの中にどれほどの実力を持っているのか。
なぜ、急に強くなったのか。
それを知るためだけでも、仲間になる価値はありそうだ。
そっか。仲間になるかもしれないのか。
もちろんそれが目的で来たわけだけど、いざそうなると変な感じがする。
よりにもよって、こんな幼さ残る少年と組むことになるなんて。
でも、印象は悪くない。
私は挨拶として、片手を前に差し出す。
「よ、よろしくです」
ちょっと距離を詰めすぎたか、彼は戸惑いながら私の腕をとった。
彼の手もかなり小さい。
それに声もまだ高い。
年齢的には声変わりしているとは思うけど。
もう少し、成長したら体格とか変わっていくものなのだろうか。
もしかしたら彼は、私が仲間に求める要素がつまっているのかもしれない。
また私は、「年上のおねえさん」になるわけか。
うん、悪くないかも。
今度は完璧に何てならなくていい。
自分らしければ、それでいい。
そう心に刻んだ私は、目の前の少年冒険者のか細い手を、強く握った。
戦闘医 ゼマ・ウィンビー 高見南純平 @fangfangfanh0608
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます