第6話

「……パーティー、いいかもね」


 今の自分に必要なものは、案外シンプルなものなのかもしれない。


「そうだろ? しかしだな、1つ問題がある。それは、また過去の繰り返しになってしまうことだ」


 繰り返し。それはつまり、頼られるのに疲れて自分を見失う、ってことかな。確かに、あんな状態になるのは、もう勘弁だ。

 体は動いても、心がすり減っているようで、気色が悪かった。


 私が「じゃあ、どうすれば」と質問しようとする前に、すでにグデオンはまとめた自分の意見を述べてくれた。


「そこでだ、お前を頼らないぐらいの強者ならば問題ないだろう。十分な力があれば、それだけお前の負担が減るということだからな」


 なるほどね、一理あるかもしれない。ザ・ラッシュ時代は、彼らを回復したり私が敵を蹴散らしたりする場面が多かった。


 だけど、だとするなら、新たな疑問が浮かんでくる。


「でもさ、そんなに強いなら、そもそも私はいらないんじゃないの?」


「そうかもしれない。だが、ゼマはヒーラーだ。さらに、自分の身は自分で守れるときている。

 猛者であっても、「回復役なら欲しい」と考えるのはそう稀有なことではないだろう」


 ふーん、そういうものなのかな。私はずっと回復スキルを持っていたから、いまいちそっち側の人の意見は共感できない。

 だけど、回復スキルがなかったら、回復薬などでカバーしなくちゃいけないんだよね。

 それを戦闘中に飲む隙が必要だし、調達もしなくちゃいけない。

 うん、そう考えるとちょっと面倒かも。


「あんたもそうなの? グデオン」


「ん? まぁ、正直な。だが、俺はまだまだ実力不足だ。それに、実はもう1人タンクをパーティーに入れたんだ。

 それでかなり戦いやすくなってな。今はこのバランスで行こうと思っているんだ」


 へー、新しく仲間が増えたんだ。


 なんだか、ちょっぴり寂しい気もする。


 けど、きっと彼らなりに、私の脱退と向き合って、前に進んだってことなんだよね。


「りょうかい。じゃあ、ちょっと探しみようかな。うーーーんと、強い冒険者をさ」


 私はつまり、「頼られたいけど頼られすぎるのは嫌だ」っていう我がままっ子ってことだ。完全に1人なのは、ちょっと寂しいんだ。


 だけど、それでいいんだ。


 自分の人生を歩もうと思ったんだ。それぐらい、要望を厳しくしとかないとね。


 あとは、そんな条件に合う人がいるかどうかだな。


「ああ、絶対にそうするべきさ。よし、それじゃあ俺は行くよ」


 そういうと、グデオンはお金を取り出して、テーブルの上にきちんと置いた。ざっと見る限り、丁度ソーダ分の料金ってところかな。

 きっちりしてるな。こんなの、奢るのに。


「色々ありがと。助かったよ」


 グデオンは立ち上がると、何も言わずに微かに微笑んだ。うん、やっぱりいい顔してるなこいつ。


「……そうだ。レザスには会うか?」


「それは……」


 私は考え込んだ。下手したら、あいつに殴り飛ばされるかもしれない。そうなったら仕方ないけど。

 あいつ、今の私を見たらなんて言うんだろう。

 まずは「髪、みじかっ!」かな。っふ、言いそう。


「いや、今はあんたに会っただけでお腹いっぱい。けどさ、いつか会うよ。あいつにも」


 私はずっと、無理やり過去と決別しようとしていた。もうあの時の自分は忘れようと。


 けど、そんな必要はなかったのかもしれない。


 今日、彼と話してみて、そう思えた。


「そうか。その時が楽しみだ。それじゃあな、ゼマ。会えてよかったよ」


 軽く私に向かって手を挙げると、グデオンは席を離れていった。向かうは、ギルド内のクエストボードだ。依頼書がわんさかと張り出されている。本来、彼はクエスト探しにここに来たんだっけ。


 私はそんな彼の背中を見つめながら、ボソッと呟いた。


「こっちの台詞だよ」


 よきせぬ、再会。最初は拒もうとしていたのが嘘のように、今は心がすっきりとしていた。

 なんだろう、この感覚は。


 頭とか、心につっかえたものが、すーっと流れていったみたい。


 まだ、現状は何も変わっていないのに。ふしぎ。


「じゃあ、行きますか」


 周りに誰がいるわけでもないのに、そう息巻くと私はこの場を後にすることにした。


 ついさっきまで、パーティーを組むなんて1ミリも考えていなかった。なのに、今はまだみぬ仲間を想像して、どこか心が躍っていた。


 やっぱり、私の根っこは誰かと関わるのが好きなのかもしれない。


 それを、この数年間無理やり押し殺していたのかも。


 まぁ、難しいことはもういいや。


 とりあえず、もっと人が多そうな場所にでも移ろうっと。


 私はソーダを含めた飲み代を支払うと、新たな目的を胸にギルドを後にした。

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