第5話

「一番、拒否反応を示していたのは、ギオだがな。あいつはお前を尊敬していたんじゃないか?」


 数年ぶりに長男の名前を聞いた。

 そうだよね、ギオは一番歳が近いってこともあって、私に懐いてくれていた。


「だが、あいつはお前と同じく、冒険者になったぞ」


「っえ、あの子が冒険者!?」


 さっきから私は驚いてばかりだ。数年間の出来事を一気に聞かされて、情報の処理が間に合わなくなりそうだ。

 ギオが、冒険者か。


「ああ。優秀な冒険者として活躍している。村の主力さ。それもあって、俺たちは村を出ることにしたんだ」


 グデオンたちが旅を始めてた聞いたとき、村は大丈夫なのかなって感じた。まさか、あのギオが冒険者として村を守ってるなんて、想像もつかなかった。


 私は、自分の胸ぐらいのところに頭があった小さなギオを思い浮かべる。けど、今はもっと成長して立派な男になってるんだろうな。

 もしかして、私より大きかったりして?


 想像していたら、楽しくもあり寂しさも感じ始めてきた。


 家族を捨てた、っていう本当の意味を、痛感してきた。


「ありがと、色々聞かせてくれて」


 彼には感謝しかない。こんな私を邪険に扱わず、かつてと同じように接してくれた。


「もういいのか?」


「うん。これ以上聞いても、その成長を見守れなかった、って後悔しか生まれなそう」


 私は、兄弟たちの成長を傍で見守れる、という姉の特権を放棄したのだ。ちっちゃな少年が、村の頼れる戦士として活躍するまでになった。その過程を、私は見ることが出来なかった。


「お前がそう言うなら、この話はもうやめよう」


 グデオンはそういうと、ソーダのおかわりを頼んだ。


 いつもだったら、私もビールを追加するところだけれど、あいにく全く酒が進まなかった。旧友との会話は楽しくないわけではないが、手放しで喜べるわけではなかった。


 再び運ばれてきたソーダを喉で楽しんだグデオンは、再び私に質問してきた。こんなに喋るやつだったかな。いや、話したいことが山済みなのは当たり前か。


「なぁゼマ、1つ提案していいか?」


「ん? なに?」


 なにを言うのか、私には皆目見当がつかなかった。だから、次の言葉は軽く衝撃的だった。


「パーティーを組まないか?」


「え、パーティー?」


 寒空の下、私が無理やり放棄した彼との契約。そんな彼から、またこう言われる日が来るとは思っていなかった。


「ああ、今のお前には必要な気がしてな」


 真っすぐ見てくるグデオン。昔は思ったことなかったけど、なんだか心の中を見透かされている気がした。


「……悪いけど、それは。レザスだって認めないでしょ」


 正直嬉しかった。また誘ってくれるのは。

 聞いた瞬間、色んな考えが頭に浮かんできた。

 けど、そんな資格がないのは直感的に分かってしまった。


「勘違いするな。俺らじゃない」


「ぇ?? どういうこと?」


 急に話が見えなくなってしまった。あれ、なんか誤解してた? 私。


「単純に、ソロを止めてパーティーを組んだらどうだ、っということだ」


 あー、そういうこと。ちょっと、言葉足らずだった気がするけど、私の早とちりだったわけか。

 でも、なんでそんなことを。


「いいよ、もうパーティーは。1人になりたくて辞めたんだし」


「あの時のゼマはそうだったのだろう。けど、今もそうなのか?」


 こんなぐいぐいと、他人の心に踏み入ってくるタイプだったかな。変わらないところもあるけど、知らない一面もそりゃあるか。


 もしかしたら、グデオンの言う通りなのかもしれない。


 複雑ではあるけれど、久しぶりにこうして腹を割って話したのは、凄く心地が良かった。結局違ったけど、パーティーに誘われたときは、まんざらでもなかった。


「まぁ、仲間がいたらいいな、って思う時はあるけどねぇ~」


 彼の視線から逃れるために、私は少し顔を横に向ける。すると、酒場で飲んでいる冒険者たちの姿が、また目に入ってしまった。


 私は、ザ・ラッシュに入った時のことを思い出していた。

 確かに、攻撃に回復に負担が大きかったのは間違いない。

 だけど、馬鹿言いながらクエストをこなすのは悪くなかった。


「なあ、ゼマ。もっと、自由に生きたらどうだ。せっかく村を飛び出したんだ。感情の赴くまま進めばいいさ」


「……そ、っか」


 その言葉で、私はハッとさせられた。


 簡単なことだったのに、自分じゃ気がつかなかった。


 1人になって、自由気ままに過ごしてきた気がしていた。


 けど、実際は孤独と寂しも感じていた。


 それを誤魔化して、過去のことをどこか後悔しながら日々を過ごしていたのかもしれない。


 一番、自分を拘束していたのは


「私だったんだ」


 いつの間にか、声に出してそう発していた。


 それを聞いて、グデオンはぴくッと眉を動かすも、それに触れないで置いてくれた。

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