第4話

「知りたいんだろ? 俺やレザスなんかの事より」


 まじか、お見通しってことか。

 もちろん、2人の現在にも興味津々だった。私が抜けた後、どうなっていたのか。ずっと気にはなっていた。


 そしてそれ以上に、あれからの私の家族 ウィンビー家がどうなっているのか、が気がかかりだった。


 捨ててスッキリなんてしなかった。

 それどころか、日に日に思い出す頻度が増えていくような気がした。


 気分は気楽なはずなのに、なにか足らない気がしてならなかった。


「うん、教えて欲しい。おねがい」


 私は軽く彼に頭を下げた。

 ここまで言われたら、誤魔化したって意味がない。

 強がっても、グデオンにはバレバレだと思うから。


「……分かった。担当直入に言うと「なんとかなった」だ」


 私はその淡白な言葉を聞いて、一瞬ほっとした。まだ何もかも聞いていないけれど、ネガティブな言葉が最初に出てこなくて良かった。


「私なしでも、大丈夫だったんだ」


「お前が村の人たちに協力を仰いでおいたのが大きい。最初は衝撃的だったようが、あんなことされたらほうっておくことは出来ない。

 小さな村だからな」


 せめて私が残せるものは残してしておこう、と思ってやった手紙作戦は、思惑通りいってくれたようだ。村の人たちが優しいのは、私が一番よく知っていたからね。


「それで、なるべく子供たちは自分の出来ることは自分でやるようになったさ。お前が事細かく指示していたんだろう?」


「うん。歯磨きとか包丁の使い方とかね」


 兄弟たちには、深い謝罪と共に、それぞれに必要なことを書き記していた。特に年少の子をフォローするようにと、お兄ちゃんたちには伝えておいた。


「そして、これは医者が一番驚いていたが、お前の母親の容体が回復していった」


「っえ、ほんと!?」


 私は思わず大声を出してしまった。ちびっ子たちのことも心配で仕方なかったけど、体調がすぐれない母親のことも不安に感じていた。


「お前の方が驚いたな。ああ、ほんとさ。原因は分からないが、おそらく「母親に戻った」からだろうって」


 まるでお医者さんみたいに、淡々と母親のことについて語ってくれた。


「お前がいなくなれば、兄弟たちが母親に甘える瞬間も増えたんだろう。それが、あの人にとっては、喜びだったのかもしれない」


「それって……私のやってたことが逆効果だったってことじゃん」


 私は母さんの負担にならないように、出来るだけ家のことは私がやってきた。たまに手伝ってもらうことはあったけど、兄弟の子守りの大半は私だった。


 過保護、なんていうけど、もしかして、私が家族にしてきたことってそういうことだったのかな。


 父さんがいなくなってから、私がなんとかしなきゃってずっと頑張ってきた。

 それが、皆の足かせになってたってこと?


 そんなの、そんなのって。


「そうとは言い切れないと思うがな。ただ、1つ言えるのは、お前は頼らな過ぎたということだ」


 グデオンの意見が、胸の奥まで突きささった。

 思い当たる節しかない。

 というか、ここ数年間、私も同じ後悔をしてきた。


 あそこまで追い込まれる前に、誰かを頼るべきだった。


「そして、俺たち周りの人間も、それで大丈夫と思い込んでしまった。ゼマが何でもこなせるから、これでいいと。

 家事に育児、そして戦闘と俺たちのサポート。

 今考えれば、負担が大きすぎる。

 なんで、そんな簡単なことに気がつかなかったのか」


 グデオンは歯を噛みしめ、下をうつむきながらそう吐露していた。私への説教かと思っていら、いつの間にか矛先が別の人間に向いていた。


 こいつがこんな風に考えていたなんて。


 そしてグデオンは自分の何かを抑えきれず、その場で立ちあがった。

 すると、思いもよらない行動をとった。


「すまなかった。お前の闇に気がついてやれる人間がいたとしたら、あの当時お前のリーダーだった俺だ。

 パーティーの長として、失格だった」


 グデオンは強く目を閉じながら、私に向かって頭を下げてきた。

 そんなこと、あんたがする必要ないのに。


「ちょ、ちょっとやめてよ。ほら、目立ってるから」


 私が大声を上げたこともあって、さっきからちらちらと周囲の視線を感じていた。そしてこのグデオンの行いで、また注目を浴びだしたのがなんとなくわかった。


 私は頭を下げる彼の肩を掴んで、無理やり席に座らせる。体感が良いのか、なかなか膝が曲がらなかった。


「っふぅ、少し感情的過ぎた。けど分かっただろ。後悔しているのはお前だけではないということだ」


「うん、それはびしびし伝わってきた。もしかして、レザスも?」


「うーん、あいつは分からんがな。とにかく、お前がいなくなったことに怒っていた」


「っふ、想像できる」


 なにかに八つ当たりしている彼の姿が、ふわっと私の中に降りてきた。思ったことがすぐ言葉に出ちゃうからね。

 でも、そうやって純粋にあの時の自分を攻めていてくれたことが、逆にありがたく思えた。


 グデオンのように謝られてばっかじゃ、調子がくるってしまう。


 あんなことしたんだから、全員を敵に回したと思っていたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る