ゼマの孤独
第1話
私が家を出てから、もう数年が経っていた。
あれから実家には帰っていない。帰れるはずがない。
悩んだ末に選んだ道とはいえ、結局私のしたことは「家族は見捨てた」なんだから。
今思うと、あの時の私はどうかしていた気がする。
逆に言えば、それだけ追い詰められていたってことでもあるけど。
色々と失ったわけだけど、そのかいはあった。
今はソロで冒険者として活動している。
他の仕事も考えたけど、やっぱりこれが一番私の性に合っている。根が野蛮なのかな。モンスターを叩きのめすのは、気持ちがいい。
ギルドにいた冒険者に聞いた話によると、ソロの冒険者というのは少ないらしい。1人はそれだけ敵の注意が自分に向くということでもある。
ヒーラーは貴重だからあまりいないけど、味方を守る盾役のタンクを仲間に入れているパーティーはわりと多い。
けど、自分自身で戦闘も回復も出来る私は、ソロに向いていることが分かった。傷ついてもすぐに回復できる。
誰かを癒さなくていい分、以前よりも楽なぐらいだ。
レベルもソロ期の間ででだいぶ上がった。パーティー契約をすると得られる経験値が分散するらしいから、ソロのほうがレベルアップしやすいらしい。
もう40を超えている。
回復スキルも少しだけ増えた。
傷ではなく、毒などを直す治療スキルも獲得した。
どんな相手にも、私は対応できると思う。
そして、今日もお仕事に勤しんでいるところだ。
レベルが上がったことにより、受注するクエストの難易度もあがっている。
それに比例して報酬も良くなっている。
今日のクエストはこれだ。
【歴戦の野獣を討伐せよ】
魔獣の森に住むワイルドタイガーを狩ってもらいたい。今回の対象は、何度も冒険者を返り討ちにしている猛者だ。右目に傷があるのが特徴だ。
レベルも高いが、ベテラン相当の実力者ならば狩れなくはないだろう。
ここいらで、奴の成長を止まらせないと、手をつけられなくなるかもしれない。
よろしく頼む
依頼主・魔獣の森 偵察担当者
ワイルドタイガーか、私にとっては何かと因縁がある相手だ。
といっても、私が何かされたわけじゃないけど。
私の父の命を奪った相手だ。
そして、まだ若かったグデオンとレザスを痛めつけた相手でもある。
あのあと、彼らの傷を癒したことも、家出のきっかけだとすると、僅かだが私にも関係している。
実際に戦ったこともある。このソロ生活の中で。
確かに強いけど、今の私には勝てない相手じゃない。
けど、今回は歴戦の猛者らしい。
当たり前だけど、人がレベルアップするようにモンスターも日々成長していく。だから同じ種族であっても、とんでもなく強力な場合も多々ある。
そういった有力候補の芽を、早い段階で摘むのも私たち冒険者の仕事でもある。
私はそいつを探すために、指定の場所である魔獣の森にやってきていた。
何の変哲もない、青々とした森だが、特徴があるとしたら小型モンスターが少ないことだ。ここにはゴブリンのような奴は少ない。
ワイルドタイガーのような、一匹で強力な力を有したモンスターが多いらしい。
だから、結構森の奥まで来たけど、全くモンスターの姿がない。
「あ、これ」
と思っていた矢先に、私はモンスターの痕跡を発見した。
私は少し先の地面に目を向ける。
野草が異様な形で降り曲がっており、よく見ると下の地面が異様な形にくぼんでいる。
よく観察すると、それが5本足の巨大な獣の足跡なことが分かる。
ビンゴ、ってところかな。
モンスターの数は少ないし、たぶんお目当ての虎ちゃんだと思う。
私の予想はすぐに的中することになった。
ひどい獣臭が、私の鼻孔を刺激する。
そいつは森の奥から姿を現した。
名前に反して、ちょっとだけチャーミングな見た目をしている。
黒と、少しだけ色あせたピンク色の虎柄をしている。
だけど、顔は猛獣そのものだ。
いくつもの鋭利な牙を口からはみ出させながら、のそのそとこちらへと近づいてくる。
体長は私2人分かな。もっとあるかも。
こんな奴と戦えてしまうんだから、紋章によるレベルアップっていうのは不思議なものだ。見た目的にはあの当時とほとんど変わらないし、大人の色気が溢れているぐらいかな。
あとは、長かった髪をバッサリ切った。
でも、女の私でもこいつと対等に渡り合うことが出来る。
勝てるかどうかは、やってみないと分からないけど。
そいつは私に気がつくと、片目だけで私を睨みつける。依頼書に記されていた通り、もう1つの瞼は、切り傷があって閉じられている。
剣による傷かな。
回復スキルは持っていないようで、ダメージが残っちゃったんだな。あんなの私だったらすぐに治せた。まぁ、あれぐらい古い傷だと、もう手遅れかもだけど。
その傷があることにより、猛者という言葉がこのワイルドタイガーには相応しいかも。
「よし、いっちょ稼ぎますか」
私は背中に携えた相棒を手に取る。
何の変哲もない鉄の棒だ。
名前もアイアンロッドとそのまんま。
けど製作者の腕がいいのか、かなり使い勝手がいいし威力もある。
私はアイアンロッドを構えながら、ワイルドタイガーに駆け寄っていく。
真っ向勝負。
それが相変わらずの私の戦い方だ。
「【スイングインパクト】!」
アイアンロッドに私の魔力を流し込む。シンプル・イズ・ザ・ベスト。ただ殴るだけのスキルだけど、私のフェイバリットスキルだ。
「グォガオォォォォオ」
ワイルドタイガーは雄たけびを上げると、私の攻撃をひらりとかわして見せた。こんにゃろー。
さらに、右足を振り上げると鋭い爪で私をひっかいてきた。
銀色の爪が一気に漆黒へと変色していった。
【ヘルクロー】と呼ばれるスキルだ。
「っぐ、いったぁ!」
その爪はわき腹にかすった。へそを露出してあるから、そこから血が流れていく。
少し掠めただけなのに激痛が走る。あー、最悪。
私は防具をつけていない。装備は、数年前と変わらない魔法使い用ローブを改良した奴だ。母さんが編んだくれたこれを、私はなんだかんだ使い続けていた。
「【オートヒーリング】」
私はすぐさま自分に回復スキルをかける。これは一定時間、自動で傷を癒してくれる優れスキルだ。これがあると、私は攻撃に専念できる。
すぐにわき腹の切り傷は塞がっている。血は肌とか服に付着したままっだけど。
私はそのあとも、打撃系統のスキルで猛攻を仕掛ける。
相手の攻撃なんて避ける必要はない。
私がくたばる前に、相手を叩きのめせば終わりなんだから。
「おりゃ! 【刺突乱舞】」
もうザ・ラッシュを抜けたけど、乱舞スキルはよく使う。隙ができやすく攻撃を受けやすいこのスキルと、ダメージをなかったことにできる回復スキルの相性が良い。
ワイルドタイガーに避けられ、反撃を喰らい続けても私は乱舞を止めない。
「ガァァァァ!」
敵が何度も私をひっかき、その度に痛みに襲われ、血を流す。
けど、それでいい。
反撃を仕掛けられるということは、逆にそこが相手に攻撃を当てるチャンスだ。
ヒット&ヒール。
これが今の私の戦い方だ。
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