第8話

「やっぱおれら、最強だな」


 予想外の事態だったけど、私たちはこれを乗り越えられた。なんだかんだ、私たちのパーティーバランスは良いんだと思う。


「最強は言いすぎじゃない? あんたも私も、重いの喰らったし」


 痛みは回復スキルによって、もう感じることはない。けど、脳はそれを記憶してしまっている。あの時の衝撃などは、鮮明に覚えてしまっている。


「っぐ……。けどよぉ、ゼマがいるんだから、あんなのかすり傷にもなんねぇ。助かるぜ、ほんと」


 戦いが終わって徐々に気が抜けてきたのか、レザスはまたそんなことを言ってくる。これだから、こいつを嫌いになれない。って、私ちょっとチョロすぎ??


 そんな時、私の手の甲から、綺麗な青色の光が輝きだした。

 手の甲には、紋章が刻まれている。剣にも見えるし、王冠とかそんな風にも思える。

 形はどうであれ、この紋章は私の大事な一部だ。


「っお、レベルアップか」


 私はその紋章を、反対の手で軽く触れる。

 するとそこから、半透明の四角形のパネルが現れる。

 そこには、私の個人情報が載っている。

 といっても、今回はお知らせだから、簡易的な物なんだけどね。


 名前  ゼマ・ウィンビー

 種族  人間

 レベル 27→28


 ハイゴブリンを倒したから、レベル1上昇したんだ。


 レベルは、だいたいの私の強さを表している。これが高ければ高いほど、魔力や身体能力が上昇する。らしい。

 実際は微妙な変化だから、あんまり変化は分かりづらい。

 一気に、5と10もレベルが上がれば別だろうけど。


 この紋章は私だけじゃなく、グデオンたちにも刻まれている。

 確か全生物、共通の生体システムらしい。

 地面に転がったハイゴブリンの手にも、大きな紋章があしらわれている。


 他の2人はもう、レベル30を超えている。私より先に冒険者になってるからね。

 でも、私ももうちょっとだ。

 レベルが上がること自体は、自分の行動が正当に評価されているみたいで結構好き。


「2人とも、戦闘の余韻に浸っているところ申し訳ないが、まだ戦いは終わっていない。クエストは続いている」


 すっかり集中力が途切れていた私たちを見て、グデオンが注意喚起をしてくる。

 そうだった。ハイを倒したのは、クエストとは関係ないんだった。


「そっか、まだゴブリンは生きてるもんね」


 私が追い払いはしたけど、殺せてはいない。まだその辺にうじゃうじゃいるはずだ。

 指揮官的立場のハイが消えたから、士気だったり統率力は落ちていると思うけど。


「ハイゴブのあとじゃ、やる気でねぇ」


 略称でモンスターを呼ぶ癖が、レザスにもあった。リザードマンのことをリザマン、とかね。モンスターの種類は膨大だし、覚えやすくするのは大事だとは思うけど、なんか略し方がダサいんだよねぇ。


「おいおい、これも立派な仕事だ。村の存亡に関わることかもしれないんだ」


「真面目だね、グデオンは。じゃあ、ちゃちゃっと終わらせて帰ろう」


 彼の言うことは至極まっとうだ。

 でも、レザスじゃないけど、私もやる気が落ちていた。

 今日は早めに、帰れるかも、なんて淡い期待をしていたからだ。


 仕事自体は、ゴブリンを一掃すれば終了だ。


 問題はそのあとだ。

 ギルドへの報告はグデオンが率先してやってくれるけど、まずギルドに帰るのに多少は時間がかかる。

 今いる魔鬼の森は比較的近辺であるけど、全く歩かないわけじゃない。モンスターの生息外に村を作ったわけだから、当然と言えば当然なんだけどね。


 それに、家に帰ってからが本番だ。

 食材足りないだろうし、八百屋とかで買い物してかなきゃいけない。

 そのあとは洗濯物取り込まないと。


 そのあとは夕食の準備。


 あとは、手が空いたら、兄弟の宿題も見てやんないと。大した問題じゃないけど、6人分あるから、意外と骨が折れる。

 学校の先生は厳しいから、ちゃんとやらないとこっぴどく怒られる。

 経験者が言うんだから、間違いない。


 そのあとは、皿洗いに、年少たちを風呂に入れないと。


 あー、やることいっぱいあるなぁ。


 朝は頼れるおねぇちゃん。


 昼は頼れるヒーラー。


 そして、夜もおねぇちゃんに戻る。やってることは母親だけどね。


 考えただけで、ちょっとめまいがしてくるスケジュールだ。


 こんなのを毎日繰り返している。


 でもやらなくちゃいけない。


 なんたって、私は完璧な女だからね。

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