第7話

 よし、グデオンの言う通り、攻撃が効いていないわけじゃない。

 このまま畳みかければ……


 だけど、相手もただ突っ立ているわけじゃない。


 反撃に出たハイゴブリンは、強靭な脚を前に出して私を蹴り飛ばしてきた。


「っくぅぅぅう!」


 痛い痛い痛い痛い。


 大げさかもしれないけど、気持ち的にはこれぐらいの衝撃だった。

 わき腹を蹴られた私は、そのまま後ろに放り出される。

 咄嗟に後ろに跳んだから、まともには食らっていない。


 こんな時は、痛みのことは一度忘れて、すぐに治療に入るのが先決だ。


「【ヒーリング】」


 私は自分自身に回復スキルを発動した。実はこのスキル自体は、そこまで有能な物じゃない。魔力消費が少ない代わりに、それだけ回復速度や量も心もたない。


 けど、私は【回復力上昇】と【回復速度上昇】っていうスキルを持っている。その名の通り、【ヒーリング】とかの回復スキルの性能を底上げてくれる。

 だから私は、ヒーラーとしても優秀なのだ。


 こんな攻撃、すぐに帳消しにできる。


「喰らいやがれ。【パワーナックル】」


 ハイゴブリンに張り付きながら戦っているレザスが、スキルを発動した。ガントレッドに彼の魔力が流れていく。


 だが、遠くから見ていた私には分かった。

 ハイゴブリンはその攻撃に気がついている。

 そして、スキル発動時には僅かだけど隙が出来る。


 それを知っていたかどうかは分からないけど、ハイゴブリンは再びこんぼうをレザスに叩きつけようとしていた。


 同じ攻撃は二度通じない。なんていうけど、野良のモンスターでもそうなんだよね。

 だけどそれは、人間にも言える。


「【つばめ返し】!」


 グデオンが、こんぼうを持った方の腕に向かって、剣を下から上へと振り上げた。しかもこれはスキルなので、その速度とキレが尋常ではなかった。


 ハイゴブリンはそれに気がつくことなく、片腕を綺麗な切り口で切断された。


 これが、瞬速で相手を斬り上げる【つばめ返し】っていうスキルだ。剣は汎用性も高くポピュラーだから、他の武器よりもスキル種類が多いらしい。

 私も、棒スキルがいっぱいあればなぁ。


 ダメだダメだ、まだ戦いは終わっていない。

 集中しないと。


 私は今がチャンスだと、再び距離を縮める。すでに棒を構えており、いつでも攻撃が出来る状態だ。

 その頃、レザスの【パワーナックル】が、避けられることなくハイゴブリンに当たることとなる。


「グゥォォォオォォォォオォ!」


 今までで一番の大声だ。そりゃそうだ。腕が切断されて、腹には一撃喰らっている。いくら回復スキルがある私でも、絶望を感じるね。


「乱舞だ!」


 私はリーダーでもないのに、2人に指示をした。けど、どうせ同じことを考えていたはずだ。なんせ、私たちは【ザ・ラッシュ】だ。


 私は木の棒を地面に向かって、刺すように叩きつける。そして、腕におもいっきし力を入れて、タイミングよくジャンプをする。


 するとあら不思議、私の体がいつの間にか宙に跳んでいく。

 棒高跳びは、子供のころからやっていた遊びみたいなものだ。

 だから、こんなのお茶の子さいさいだ。


 私はハイゴブリンの頭よりもさらに高い位置まで飛んできていた。だけど、棒のリーチがあるから、ここからでも攻撃は届く。


 上空からは下の様子がよく分かる。


 レザスはそのままの立ち位置で気構えをしている。

 グデオンは即座にハイゴブリンの背後に向かっていた。


 乱舞は簡単にいえば、やたらめったらに攻撃を続けるスキルだ。だから、動きが激しくなるので、それだけ周囲の邪魔になる。


 だから、3人同時に仕掛ける場合は、いつもこの位置関係になる。


 準備が整ったことを確認すると、私は棒を水平にして突きの姿勢をとる。あいにく、殴打系の乱舞スキルは持っていない。

 代わりはあるけどね。


「【刺突……】」


 私は腕に力と魔力を込める。


「【強拳……】


 レザスは姿勢を低くして、力をため込んでいる。


「【強斬……】」


 グデオンは剣を鞘に納めて、集中力を高めている。


 そして、3人同時にスキルを発動する。


『【乱舞!】』


 無数の斬撃、突き、拳撃が、ハイゴブリンを強襲する。


「おらおらおらおらぁ!」


 レザスの怒涛のラッシュが、ハイゴブリンの肉体を破壊していく。拳はリーチがない分、それだけ腕を引き戻すのが速い。だから、乱舞の中では一番連撃速度が優れている。


 だけど、私だって負けてない。乱舞は半自動だけど、しっかりと意識して体を動かすことで、その性能は素早くなる。


「はいはいはいはいぃ!」


 私はハイゴブリンの頭を一点狙いで、何度も突きをかましていく。頭は脳がある場所だ。そこを絶えず攻撃することで、反撃する意識を与えない。


 そして最後に、グデオンの超高速斬撃が、ハイゴブリンの背中を襲う。

 正面から絶えず殴打されているので、敵は逃げることが出来ない。


「グオヮァァァァ」


 痛々しい叫び声をあげたハイゴブリンの四肢が、グデオンの斬撃によって切り離されていった。

 大量の血しぶきが上がり、肉の塊が地面にボトッと落ちて行く。


 地を浴びると洗濯が面倒なので、私は地面に降りると素早くステップして除ける。

 それはグデオンも同じだったのだが、レザスはその場で突っ立ており、地の雨を浴びている。なんだか気持ちが良さそうだ。

 悪趣味かもしれないが、戦闘をしていると興奮状態になるので、致し方ない部分もあるかな。

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